出版社内容情報
身体性に結び付けられた「女らしさ」ゆえにケアを担わされてきた女性たちは、自身の経験を語る言葉を奪われ、言葉を発したとしても傾聴に値しないお喋りとして扱われてきた。男性の論理で構築された社会のなかで、女性たちが自らの言葉で、自らの経験から編み出したフェミニズムの政治思想、ケアの倫理を第一人者が詳説する
内容説明
ひとはケアなしでは生きていけない。それでは、ケアをするのは誰なのか?ケアされる/する人間の真実の姿から正義や政治を問い返し、“もうひとつの声”を聴き取るケアする民主主義を追求。
目次
序章 ケアの必要に溢れる社会で
第1章 ケアの倫理の原点へ
第2章 ケアの倫理とは何か―『もうひとつの声で』を読み直す
第3章 ケアの倫理の確立―フェミニストたちの探求
第4章 ケアをするのは誰か―新しい人間像・社会観の模索
第5章 誰も取り残されない社会へ―ケアから始めるオルタナティヴな政治思想
終章 コロナ・パンデミックの後を生きる―ケアから始める民主主義
著者等紹介
岡野八代[オカノヤヨ]
1967年三重県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。博士(政治学)。現在、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。専攻、政治思想、フェミニズム理論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
樋口佳之
53
フェミニスト経済学者として、市場を中心とした経済概念を転換させ、むしろ市場外の環境…とされる、家族やコミュニティやその他の経済活動こそが多くの財やサーヴィスを生み出している/彼女が想定する経済は、市場における財の交換に限られず、より広い、人間が生きるうえで他者と相互依存したり、自分たちの心身が必要とする欲求充足のために相互行為したりすること/市場経済とは、そうした広大な経済活動からもたらされたさまざまな資源、たとえば、労働力やひとが結ぶ信頼関係などを利用することで初めて成り立つ、大海に浮かぶ小さな島 →2024/01/28
ネギっ子gen
52
【ケアをする人もまた、ケアされる人。自分には他人によるケアは必要ないと思う人ほど、実際には他者からの気遣いや配慮、物理的な世話になっている】男性の論理で構築された社会で、女性たちが自らの声で語り、自らの経験から編み出したフェミニズムの政治思想、ケアの倫理を第一人者が詳説。<コロナ禍で在宅勤務が増加し、これまで家事に参加していなかった者も、家で過ごすことになった。だからこそ、とくに子育て中の家庭では、無償で、あるいはそれまで主に女性たちが担ってきたケアが露見し、以前よりもケアが注目されるようになった>と。⇒2024/03/20
おたま
46
ここで語られているのは、新しい、というよりもむしろこれまで顧みられなかった「倫理」の発掘だ。それはギリガンの『もうひとつの声で』の深い読み取りに始まる、フェミニズムに表現された女性たちの声から生まれる「倫理」。岡野八代は、これまでのフェミニズムの歴史も振り返りながら、女性たちが社会で担わされてきた「ケア」に照明を当てる。「ケア」(つまり、産み、育て、食べさせ、学ばせ、さらに介護する、看取る等)が、女性に担わされ、家事労働という不払い労働の中に隠蔽されてきた。しかし、この「ケア」なくして社会は成り立たない。2024/03/02
フム
35
有意義な読書になった。 西洋的な道徳の伝統は、権利、自立、そして正義といった概念を発展させ、それらを普遍的な理論として今の社会が作り上げられている。そのため政治とは自律的・自立的である人によって行われることが当然視されている。しかし、私たちは例外なく、脆弱で傷つけられやすい存在であり、制御し得ない自然からの脅威だけでなく、他者からの危害、放置によっても、傷つけられる可能性を持つ。例えば子ども、障害者、高齢者の存在を考えれば明らかだ。2024/03/22
Bevel
8
ケアの倫理は、ケアを行ってきた女性と内在する規範の記述から出発した批判理論である。同時にその歴史は、その矛先をみずからに向けた自己批判を通して、ケアの政治的領域、グローバル領域への拡張を構想した歴史という感じ。ギリガン関連を扱う2、3、4章が読んでない人にはよいのかな。提示されるオルタナティブは、公私二元論を前提としないケアを軸とした共同体を作り、その共同体が正義を参照しながら相互に批判し合うことで可能になる民主主義がいいよねという感じ。『フェミニズムの政治学』の枠そのままでもっと先が見たかったという感想2024/01/24