出版社内容情報
イギリス独自の重層的なセーフティネットの中で、社会の「錨」のように今日まで働き続けてきたチャリティ。自由主義の時代から、帝国主義と二度の大戦をへて、現代へ。「弱者を助けることは善い」という人びとの感情の発露と、それが長い歴史のなかでイギリスにもたらした個性を、様々な実践のなかに探る。
内容説明
弱者への共感と同情が生んだ無数のチャリティと、それらを組み込む重層的なセーフティネット。本書はイギリスをその「善意」から読み解き、独特の個性に迫る。産業革命、帝国の時代、二度の大戦、そして現代へ。海を越え、世界を巻き込む激動の中で、長い歴史に立脚し、社会の錨として働き続けるチャリティの光と影を描く。
目次
はじめに 日本から見たイギリスのチャリティ
第1章 世界史における他者救済―イギリスの個性を問い直す
第2章 近現代チャリティの構造―歴史的に考えるための見取り図
第3章 自由主義社会の明暗―長い一八世紀からヴィクトリア時代へ
第4章 慈悲深き帝国―帝国主義と国際主義
第5章 戦争と福祉のヤヌス―二〇世紀から現在へ
おわりに グローバル化のなかのチャリティ
著者等紹介
金澤周作[カナザワシュウサク]
1972年生まれ。現在、京都大学大学院文学研究科教授。専攻は近代イギリス史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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skunk_c
68
とても興味深い視点からイギリスの近現代史を語っている。3つのチャリティの動機を定点観測のように用いながら、時代ごとの特徴を描き出そうとしていて、まずまず成功していると思った。イギリスという強固な階級社会において、しかもレッセフェールと対外膨張によって一時は世界の頂点に立った国において、所得の再分配が如何に行われてきたか、さらには奴隷貿易や侵略という負の行為に対する、無自覚な罪滅ぼしという指摘など、得るところは多かった。ただ、もう少しイギリスの階級をしっかり押さえた論調でも良かったようにも思うが。2021/07/17
aika
46
「困っている人に何かしたい」といった3つの気持ちを軸にチャリティの面から展開する新鮮なイギリス史です。異教徒、浮浪者や物乞いは救済の対象としない選別。受給者を出資者が選挙する投票チャリティ制度。植民地支配のため、キリスト教布教の足掛かりとしてのチャリティの傲慢さなど、チャリティ=善、とは割り切れない実態の数々に驚きの連続でした。一方で、国家福祉から自助重視へと移り変わる政治に絶えず影響されながらも、様々な職業や階級の市民が連帯しながらより良い社会を築こうとするチャリティの可能性には明るさも感じました。2021/09/11
TATA
38
好著、時間はかかったけど面白く読ませてもらいました。英国のチャリティに対する人々の強い関心をキーにして、宗教史、地政学史も交えての近現代を論じる試み。偉大なる大英帝国の血統を継ぐものとして他国の人権蹂躙にも踏み込む姿勢はなるほどここから来てたのかと膝を打つ。サッチャー以後福祉国家路線が退潮してチャリティの重要性が上がったとの記載から、それでは日本でもとも思うが、英国の場合は激しい階級社会と宗教観が背景にあったからこそなどと読み耽りながらいろんな考えが頭をよぎりますが、それも楽しい読書の時間でした。2021/12/29
Aminadab
27
岩波新書の新刊で私は週刊文春の書評で知った。とっくの昔に書かれてあるべき本なのに2021年まで書かれなかったというのは、本書にもあるように第二次大戦後から1970年代までの国家福祉全盛期はチャリティの冬の時代だったということなのか。とにかく英米の社会で民間チャリティ団体の果たす役割が大きいことはニュース報道でも小説でも日々実感させられていることなのに、その全貌を通史として短くまとめた本はこれまでになかった。イギリス限定でアメリカのことは書いてないがそれだけにまとまりがいい。小説読みならぜひ読むべし。2021/12/07
崩紫サロメ
24
①困っている人に対して何かをしたい②困っている時に何かをしてもらえたら嬉しい③自分の事ではなくとも困っている人が助けられている光景には心が和む……チャリティを支えるこの3つの心情に、それぞれの時代・担い手の「ただし」を添える形で描き、帝国としてのイギリスの膨張と衰退を辿っていく。自助―互助―チャリティ―公的救貧(国家福祉)の中でチャリティの層が極めて分厚いのがイギリスの特徴であるとする。チャリティには「救う対象」を選ぶ構造があり、そこから帝国意識を浮き上がらせていく、チャリティから見たイギリス帝国。2021/06/18