出版社内容情報
文字資料だけでなく、聞き取りによる歴史の重要性に光が当てられて久しい。しかし、経験を語り、聞くという営みはどう行われてきたのか。幕末明治から現在まで、語った言葉が歴史として紡がれる現場をたどり、歴史学の可能性を展望する。
内容説明
文字史料だけでなく、聞き取りによる歴史の重要性に光が当てられて久しい。しかし、経験を語り、聞くという営みはどう紡がれてきたのか。幕末明治の回顧、戦前の民俗学、戦争体験、七〇年代の女性たちの声、そして現在…。それぞれの“現場”を訪ね、筆者自身の経験も含め考察、歴史学の可能性を展望する初の試み。
目次
第1章 声の歴史をたどる―幕末維新の回顧録から柳田民俗学まで
第2章 戦後の時代と「聞く歴史」の深化―戦争体験を中心にして
第3章 女性が女性の経験を聞く―森崎和江・山崎朋子・古庄ゆき子の仕事から
第4章 聞き取りという営み―私の農村調査から
第5章 聞き取りを歴史叙述にいかす
第6章 歴史のひろがり/歴史学の可能性
著者等紹介
大門正克[オオカドマサカツ]
1953年千葉県生まれ。一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。博士(経済学)。横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授。専攻は日本近現代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
118
オーラル・ヒストリーということで日本の近現代史の文献などから、ご自分のフィールドワークの分野にまで踏み込んで論述されています。わたしはその内容についてはいろいろあると感じるのですが、政治学者が政治家の聞き書きを行っているのにも注目しています。この本ではそのような分野ではなく、明治時代は柳田を中心にして最近では在野の人々の話を重要視しています。神島二郎さんの著作を思い出しました。2018/06/03
藤月はな(灯れ松明の火)
95
私の通っていた大学はフィールドワークを主にする講師がいた。その人から「文化人類学のアプローチにはこんな方法があるよ」と教わったのが当事者の語りを聞く方法だった。配布されたレジュメには、広島での原爆体験の話が挙げられていたが「焼き魚の匂いを嗅ぐたびにあの時の事を思い出す」という語り手の言葉に「語り手が語りたくない事もある。研究のためだと言え、それを無理に思い出させてもいいのか。語り手に真摯に向き合う覚悟はあるのか?」と自問自答した思い出がある。この本を読んだのはそんな思いが今も残っていて教えて欲しかったから2018/03/20
アナクマ
48
明治以降のオーラルヒストリー成果を概観し、そこに新しい歴史学の可能性をも託す。◉まず、聞き語り現場の豊穣な実例を紹介。つづいて、著者自身の取り組み歴の変遷が、ややボリュームをとって語られます。ここも大切。なぜなら、語り手に対する聞き手の変化(=聞くことの意味を反芻・更新し、まるごと受けとめられるようになること)こそが、歴史の受け渡しにとって重要だから、と。◉いろいろな隣人の話を聞き取り、心の伸び縮みを楽しみたい。身体はすっかり硬くなってしまったが。2019/02/08
ゆう。
34
歴史研究において、語ることと聞くことの意味を深く探究した本だと思います。戦争体験や政治史などを含め、当事者の語りの持つ意味、また聞く意味を考えることができました。これはナラティブアプローチとは違うと思いました。語りの中にある真実をみようとすることを重視しているからです。また、聞く側の姿勢をも考えさせられました。真実とは何かを明らかにし、語り手の思いに共感する中で生まれるのが語る歴史、聞く歴史の一つの意味なのかなと思いました。難しいですね。もっと深めたいです。2018/03/08
浅香山三郎
18
「語る歴史、聞く歴史」の流れを通観するとともに、著者自身の試行錯誤から、オーラルヒストリーの可能性を紹介。オーラルヒストリーの対象の変遷や、方法論の多様性等、ひとことで同じカテゴリーに括り切れない豊富さを論じる。人間の経験を軸にした言葉の世界と、時系列の叙述の世界の交錯と、語り手の経験を聞き手がいかに多面的に受け止るかといふ問題など示唆に富む論点が多い。2019/05/04