内容説明
二〇世紀アメリカを代表する「経済学の巨人」は何と闘い続けたのか?アメリカ思想の二極対立をえぐり、経済学研究の水準を社会思想史研究の水準に高めてきた著者が、病をおして筆を進めた渾身の作。ケインズによってイギリス論を、シュンペーターをかりてドイツ社会を論じてきた社会経済思想史研究三部作の完結編。
目次
1 アメリカ―対立する二つの極(アメリカ社会と思想―イデオロギー化する「自由」とプラグマティズム哲学;アメリカの経済学―輸入経済学対制度学派)
2 ガルブレイスの半生(生い立ち、そして経済学者への道へ)
3 ガルブレイスの経済学(経済学への前奏曲『アメリカの資本主義』―ガルブレイス流産業組織論;現代資本主義論の提起―歴史に残る名著『ゆたかな社会』;成熟した巨大企業体制の解剖―主著『新しい産業国家』;公共国家のすすめ『経済学と公共目的』―経済的弱者を守る知識人の闘い;『大恐慌』―私たちは歴史に学ばなければならない)
「新しい産業国家」から「新しい金融国家」の中で―ガルブレイスの晩年
著者等紹介
伊東光晴[イトウミツハル]
1927年東京都生まれ。1951年東京商科大学(現一橋大学)卒業。専攻―理論経済学、経済政策。現在、京都大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
105
伊東さんの最後の著作になるのではないかと思われます。岩波新書でケインズ、シュンペーター、それとこのガルブレイスということで三部作の完成のようです。ガルブレイスはアメリカの経済学界では異端児なのでしょうが、やはり彼の言っていることは、もっともなことが多いと学生時代から感じていました。私は個人的にはアメリカのヴェブレンの系統をひく経済学者ではないかと思っています。このような人物がいるというのはアメリカも健全なのですね。2016/05/08
壱萬弐仟縁
40
多作人、名文章家のガルブレイス(ⅳ頁)。かれのファクト・ファインディングは、現代資本主義の特質を析出しようとした点(ⅵ頁)。かれは、マーシャルに経済学を学び、ヴェブレンに魅かれ、ケインズに心酔し、離れ、最大の師は現実であった(ⅶ頁)。かれは一生農民の勤勉さが習い性となっていた。労働者への温かい心を忘れなかった(42頁)。大学でかれは作家の国語教師に添削してもらい、書く力をつけた(46頁)。かれはグレッサーから経済学理論を、オーギンから経済学史を学んだ(50頁)。2016/07/24
はるわか
25
アメリカの「自由」は敵対する保守を持たなかった。新しい時代に対応することもなかった(ヨーロッパの自由リベラルが進歩と平等を結び付け、福祉社会を志向したのに対し)。アメリカでは量産コストの低下が輸送費の増大に打ち勝つことができず同一産業内に独立した企業が各地にできた。トラスト(人為的操作)による巨大独占企業の成立と不当利益と富の蓄積。マーシャル理論をミクロ理論として、ケインズ理論をマクロ理論として体系化したサムエルソンを批判し続けた。拮抗力(対抗力)理論。市場を調整するメカニズムは競争と拮抗力。2016/06/23
呼戯人
18
ソースティン・ヴェブレンやジョン・メイナード・ケインズの学統を継ぐ20世紀最大のアメリカの経済学者の業績をまとめて解説した本。もしガルブレイズの学問がアメリカ政府の受け入れるところとなり、その経済政策が実際に反映されることがあれば、アメリカはこれほど酷いネオ・リベラリズムの巣窟にはならなかっただろう。ミルトン・フリードマンという悪魔の如き新自由主義者に変わってガルブレイスがアメリカ経済のリーダーシップをとれば、21世紀はこれほど酷い帝国主義的葛藤に悩まされることはなかったのではないか。伊東光晴の傑作。2016/06/22
浅香山三郎
14
ガルブレイスの評伝であり、アメリカの経済学史でもある。それは、アメリカ的な社会のベースと、ヨーロッパ的な社会のベースとの差異の問題があり、ガルブレイスの場合、後者に親和的なところから、前者を基盤にするアメリカ資本主義を見てきたことになる。 このことが分かると、ガルブレイスの仕事の意味がよく分かる。2018/01/19