内容説明
無学で無節操な裏切り物、「陰険な権力者」と、日本でも中国でも悪評ばかりの袁世凱。しかし、なぜそんな人物が激動の時代に勢力をひろげ、最高権力者にのぼりつめ、皇帝に即位すらできたのか。褒貶さだまらぬ袁世凱の生涯を、複雑きわまりない中国のありようを映し出す「鑑(かがみ)」として描きだす。
目次
第1章 朝鮮(旅立ち;波瀾;ソウル;蹉跌)
第2章 台頭(新軍;変法;政変)
第3章 北洋(義和団事変;総督;「新政」)
第4章 革命(新しい時代;失脚;混迷;辛亥)
第5章 皇帝(「ストロング・マン」;相剋;洪憲)
著者等紹介
岡本隆司[オカモトタカシ]
1965年京都市生まれ。1993年京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。現在、京都府立大学文学部准教授。専攻は近代アジア史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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崩紫サロメ
29
日中問わず信義無き俗物政治家として描かれる、そして著者自身も「まだ若いころ、少し知って嫌いになり、立ち入って調べて、いよいよ嫌いになった」という袁世凱。結局執筆後も袁世凱に対する気持ちは変わらなかったという著者が描き出すのは「かれの立場と時代の風尚」の方に重点が置かれる。実質的には袁世凱が目指したものは立憲帝政で、清末のリバイバルであった。著者は嫌いな袁世凱よりも厳しく、この改革の担い手である康有為や光緒帝について描く(p.79~)その評価を分けているのは多くが虚飾であり、良くも悪くも虚飾無き袁世凱は2022/10/04
skunk_c
22
著者自身が「嫌い」といって憚らない、特に辛亥革命期の皇帝まで目指した立ち振る舞いがある種の「俗っぽさ」を感じさせる人物の評伝なので、むしろその本質に興味を持った。主人公の私生活などについてはばっさり切り落とし、清朝末期の、各地に軍閥が跋扈し、「瓜分」と呼ばれる欧州列強による権益分奪が行われる歴史を中心に据えている。その中の甲申事変、東学の乱、戊戌政変の場面にキーパーソンとして立ち会い、巧みな振る舞いで績をあげ、一時引退の憂き目を見るが革命期に復活する姿は、むしろ内憂外患における調整力の高さが目に付いた。2016/01/02
Toska
20
「現代中国の出発」という副題に盛りすぎでは?と感じたが、最後まで読んで納得。極端な分権体制だった伝統的な清朝のあり方に対し、中央集権化の上で改革を進めようとする、現代にまで続く趨勢の走りが袁世凱だった。袁自身は若い頃から科挙での出世に見切りをつけるなど先見の明があり、軍人・官僚としての力量にも優れていたものの、時代の制約を打ち破るほどではなく、最後は皇帝即位と迷走。内戦で徹底的に相手を殲滅しようとしなかった辺り、レーニンや毛沢東のような思い切りはなかったのだろう(人間的には好感が持てるのだが)。2022/09/01
ジュンジュン
17
「国を盗んだ大泥棒」~辛亥革命を潰し、21ヵ条要求に屈した袁世凱に貼られたレッテル。「袁世凱は嫌い」と公言する著者の執筆意図は明快だ。否定も肯定もしない。ただ、清末という近代中国の出発点に彼を立たせる。だから、辛亥革命(1911年)以前が叙述の中心になる。そこから見える風景は、中国の統一が彼のせいで分裂したのではなく、そもそも分裂状態だった当時の中国の姿。彼は近代的統一を目指して失敗した…。という事は袁と孫文は似てる!?かたや国父、かたや大泥棒、歴史は残酷だ。2022/08/29
ほうすう
15
あとがきによると著者ですら「袁世凱は嫌い」(だった)とのことを述べている。確かに悪評名高い人物ではありますがなかなかどうして面白い人物ではないか。やや硬直的な態度は多いがその場をどうにか懸命に生きた人物の一人ではないかと好感を覚えた。また袁世凱が主軸ではあるが康有為と西太后のイメージも大きく変わった一冊である。2023/07/09