出版社内容情報
五千年前、メソポタミアの人々は死を恐れ神々を畏怖した。エジプト人は来世の安楽を求め、ギリシア人は不死の神々と合理的思考を両立させた。神の正義を求めるカナンの民、多くの神を取り込んだローマ人。古代地中海世界に興亡した多神教社会のなかで、一にして力ある神はどのように形づくられたか。
壮大なスケールで描く宗教的心性の歴史。
内容説明
人類の文明史五千年。うち四千年は古代であった。そのなかで地中海周辺は、神々のあふれる世界から唯一神崇拝の世界へとめざましい変貌をとげている。ここはまた表音文字のアルファベットが普及した地域でもあった。メソポタミア、エジプト、シリア、ギリシア、ローマへと広がる時空を一貫した観点から描く、壮大なスケールの心性の歴史。
目次
プロローグ 神々とともに生きる古代―ポンペイを歩く
第1章 「死すべき人間」と神々―メソポタミアの宗教
第2章 来世信仰と一神教革命―エジプトの宗教
第3章 神々の相克する世界―大文明の周縁で
第4章 敬虔な合理主義者たち―ギリシアの宗教
第5章 救済者として現われる神―ヘレニズムの宗教
第6章 普遍神、そして一神教へ―神々はローマ帝国にそそぐ
エピローグ 宗教と道徳
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
saga
52
初めに多くの神々があり。そして、虐げられた民により一神教が生まれた。しかし、多神教の国・日本に生まれ育った自分に、一神教の本質が理解できるかは疑問がある。それでも世界を理解するには、宗教を知ることが必要だと思う。文字が、神々のことを記録するために生まれ、表音文字アルファベットが普及することが、神と人との距離を遠ざけてしまったようだ。多神教の中の至高神、一神教の中の聖者崇拝と、宗教とは真に複雑なのだな~2023/12/16
ユウユウ
27
なぜ多神教があり、一神教が生まれたのか。それも地中海周辺という限られた地域で限られた時期に。副題にある“宗教ドラマ”がまさにと思える展開。個々のエピソードも興味深かった。もっとじっくり読んだり、参考文献に触れたりしたら、より楽しめそうだ。2020/08/27
おおにし
18
地中海の古代人の心には命令を下す「神」の部分と、それに従う「人間」の2つの部分に分かれていたという。これを〈二分心〉説といい、脳科学的には「神」が右脳、「人間」が左脳に当たる。しかし古代人が文字を獲得して抽象概念を持つようになると今まで聞こえていた神の声が届かなくなった。世界の激動に巻き込まれた人々は、声が聞こえなくなってしまった神への救済を求め、信仰を深めていくなかで一神教が誕生したという。〈二分心〉説はとても興味深い。しかしインドや日本などでは〈二分心〉説は当てはまらなかった。なぜなのだろうか。2020/01/25
びっぐすとん
17
図書館本。中々面白い。現世利益のシュメール人、来世信仰のエジプト人、現世も来世もさして期待してないギリシア人。差別され抑圧された人々は絶対的な神、一神教を信仰しやすい。多神教の神は所定の祭祀と犠牲を奉じさえすれば人間の所業に干渉しないが、一神教の神は所業どころか人間の想念にすら干渉する。アルファベットの開発と時を同じくして人々が神の声が聞こえなくなってしまうことが、一神教の広がる原因ではないかと著者は言うが、アルファベットの発明がなぜ原因なのかが読んでもわからない、地球上の全てには当てはまらない気がする。2021/01/26
サアベドラ
16
古代地中海・オリエント宗教史断章。著者は東大のローマ史家。古代の地中海とオリエントの様々な宗教(メソポタミア、エジプト、ギリシアなど)を紹介しつつ、そこに紀元前1千年紀に一神教が現れた背景を探る。前者はともかく後者にかんしてはまともに論じていたら新書一冊では到底足りないテーマなので、著者の考え(大規模な社会変動や危機とアルファベットの発明が一神教の誕生に大きな影響を与えた)を示唆するにとどめている。どの宗教にも危機による変化や文字化による変質という局面はあると思うので、著者の主張にはあまり同意できず。2016/07/18