出版社内容情報
生活世界=「世間」を学問の対象とすることを説いたフッサールに拠りながら,国民から遊離した大学の学問の現状を批判的に考察し,生涯学習を中心とした現場主義による学問の再編成を提言する.
内容説明
日本で、個人と社会の間にあって個人の行動を大きく規制している「世間」という存在を学問の世界に焦点を当てて論じた学問論。生活世界=「世間」を学問の対象とすることを説いたフッサールに拠りながら、国民から遊離した大学の学問の現状を批判的に考察し、生涯学習を中心とした現場主義による学問の再編成を提言する。
目次
第1章 日本と西欧における人文科学の形成―「世間」と個人(日本の人文社会科学者たちはどのようにして養成されてきたか;西欧における個人の起源と人文諸科学の展開)
第2章 日本の学問の現在(日本の学問の形と教養概念;人文諸科学は他の学問とどのような関係をもっているか ほか)
第3章 フッサールの学問論と日本の「世間」―“生活世界”の発見(フッサール現象学における“生活世界”とは何か;“生活世界”の刑法学 ほか)
第4章 日本の学問の課題―“生活世界”の探究(家政学の現在;“生活世界”の中の教養 ほか)
著者等紹介
阿部謹也[アベキンヤ]
1935年東京に生まれる。1963年一橋大学大学院社会学研究科修了。現在、共立女子大学学長。専攻は西洋中世史
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感想・レビュー
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壱萬弐仟縁
27
公共性という概念は、欧米の史的現実の中でつくられた概念をもってきて、本邦に適用しようとして生まれた翻訳語(43頁)。先に、社会の邦訳が40もあったと知ったが、公共性も日本ではなおも公私混同があったりと、認識しにくいと思う。山上憶良があきらめの境地を歌い上げている(101頁)。森鴎外の「諦念」(レジグナチオン)を想起し、どう違うのかと思う。105頁にあるように、欧米にはないという、「先日は有難うございました」と「今後ともよろしくお願いします」って世間は共通の時間の中で日本人は生きていると考える証拠とのこと。2020/09/05
shishi
8
[A+]秀逸な日本社会論。西欧の「個人」が社会をダイレクトに構成しているのに対して、日本の個人はまず「世間」に属し、数々の「世間」が社会を構成しているとする。「世間」とはフッサールのいうところの<生活世界>であって、伝統的なシステムである。日本において、「建前」と「本音」が生ずるのは、公的な制度が西欧的で合理的なシステムに依拠しているのに対して、人間関係においては未だ「世間」が幅を利かせているから、などなど、目から鱗の社会論でした。インパクトのある日本論。阿部謹也さんのファンになりそう。2012/06/03
まさや
5
文学部唯野教授を読むと教授の世界の世間がわかります。ほんとに、こんなものなのかと思い教授に聞いてみたら「あのままだ」といわれたことがあります。2021/03/25
takka@乱読
5
これは必読書である。前著『「世間」とは何か』を読了したが、それよりも分かりやすく書かれている。〈生活世界〉=「世間」を説いたフッサールの学問論を通じて、国民から遊離した学問を批判した本である。2018/11/08
スズツキ
5
週間阿部謹也第二弾。ここまでは欧州と日本の歴史的差異から見る文化論だったが、今後はより実務的な中世史を読むことにします。2015/05/20