出版社内容情報
戦前治安体制の一方の核として，特高警察と両輪をなした思想検察．治安諸法令を積極的に運用し，保護観察・予防拘禁などの抑圧装置を創出，弾圧の主役を演じた．その全体像を，戦後公安検察への継承性もふくめて解明する．
内容説明
戦前、「国体」に反するとみなされた思想・言論はきびしい取締りの対象となった。治安体制の一方の核として特高警察と両輪をなした思想検察は、“倫理上の善悪の審判官”を自任し、治安諸法令の制定・運用を主導、保護観察・予防拘禁などの抑圧装置を次々と創出した。その実態と全体像を、戦後公安検察への継承性も含めて解明する。
目次
序 思想検事とはなにか
１ 「思想司法」という発想―大逆事件から三・一五事件まで
２ 弾圧と「転向」の体系―「共産党の自壊没落時代」を演出
３ 検察主導の「思想戦」―日中戦争下の取締の拡大と深化
４ 「思想国防」体制の構築―対米英開戦から敗戦まで
５ 公安検察への道―克服されないままの戦後
結び ふたたび思想検事とはなにか
著者等紹介
荻野富士夫［オギノフジオ］
１９５３年埼玉県生まれ。１９７５年早稲田大学文学部卒業。現在、小樽商科大学教授。専攻は日本近現代史
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モリータ
12
◆2000年刊。以下、早速抜き書き。◆「機構上からみて特高警察をくらべると、特高警察官の総数は最大時で九〇〇〇人前後（戦後のGHQの「人権指令」による特高関係者の罷免は約五〇〇〇人）と推測されるのに対して、思想検事の総数（管制上の定員）は最大時でもわずか七八人であった。しかし、人的規模でははるかに特高警察に見劣りしながらも、思想検察は治安体制のもう一方の基軸たりえたのである。／ それはなぜか。第一に、全治安法制の支柱であり、最強・最大の武器である治安維持法の立法・制定と「改正」をになうとともに、（続く）2021/07/04
無識者
11
日本の戦前の治安維持はでっち上げ、決めつけで容疑をかけ、裁判までの過程で徹底的に痛め付けられる。戦後、民主化というのは特に官僚部門では不徹底で、それこそでっち上げ事件の首謀者のような人たちがそのまま、戦後も重要なポストに居座り続けてしまう。2017/08/12
coolflat
10
治安維持法違反での思想犯罪の司法処理は、検挙→検察→公判→行刑という流れでなされる。検挙においては特高警察の独壇場だが、公判以降のイニシアティブを握っていたのは思想検事である。思想検事の役割として、重要なのは治安維持法の拡張解釈の論理を開発したことと、思想犯の司法処理過程を掌握するために、「転向」方策を編み出し、保護観察制度を創出したことだ。もっとも治安維持法において役割を果たしたのは思想検事や特高警察だけではない。公判において拡大解釈な判例を下し、思想犯罪封殺の狂騒に協力した思想判事という存在もあった。2014/01/23
makio37
5
「転向」や保護観察・予防拘禁という武器で戦前戦中の治安体制を支え、特高警察とともに「車の両輪」として機能した思想検察。先に『特高警察』を読んでいた分、こちらは比較的読みやすく感じた。検挙以降の思想犯罪処理の流れ図も理解を助ける。特高警察が治安維持法の拡張解釈を繰り返す一方で、思想検察はその法が持つ力自体を拡張するよう常に働きかけ続けた。この歴史に学べば、特定秘密保護法の条文に散見される「その他」の記述が危うい。都合良く拡張解釈され、やがて「改正」されてしまう恐れを感じる。2014/11/21
にゃん吉
4
治安維持法下で思想取締を担った思想検事に注目した一冊。思想検事が、法の適用の限界に悩み、研究し、拡大解釈の理論を編み出し、それを粛々とそつなく運用していく様子が叙述され、悪法を支える、職務に忠実、熱心、事務処理優秀な能吏の存在が分かります。思想的な背景とか、多少の向き不向きもあったかもしれませんが、少なくとも、彼らの多数は、思想取締という特異分野でなく、一般的な刑事事件を担当すれば、やはり、そつのない能吏だったのではないか。そんなことを思うと、現代でも教訓とすべき点は多い話だなと思います。
