出版社内容情報
翻訳は進歩したか.掃いて捨てるほどの代名詞の山,時制にがんじがらめの文体,言わずもがなの迷訳・誤訳.「翻訳に不可能はない」と言いきる著者が,自らの血の滲むような苦労を振り返りつつ開陳する翻訳論の決定版.
内容説明
翻訳事始の時代から今日まで、日本の翻訳はいったいどこまで進んだのか。きりっと引き締まった二葉亭四迷の翻訳に引き比べ、掃いて捨てるほどの代名詞の山、時制にがんじがらめ・辞書丸写しの文体、言わずもがなの迷訳・誤訳。「翻訳に不可能はない」と言いきる著者が、自らの血のにじむような実践を振り返りつつ開陳する翻訳論の決定版。
目次
第1章 飜譯は如何様にすべきものか(軽快にして細心;習いたてのピアノ;辞書語と翻訳 ほか)
第2章 小砂眼入調(続「あいびき」;「三人冗語」と「雲中語」;「トウコギ」と「とうこぎ」 ほか)
第3章 翻訳の姿勢(翻訳は不朽の業;精読の愉悦;書淫の怪物 ほか)
第4章 『ユリシーズ』翻訳(鼎訳の猫と猫訳の猫;頭黒の小用;覆いの掛った蹄訳 ほか)
第5章 無理の愉悦(無理がジョイスフル;三島由紀夫のフィネガン飜譯 ほか)
著者等紹介
柳瀬尚紀[ヤナセナオキ]
1943年根室市に生まれる。1970年早稲田大学大学院修了。英文学者、翻訳者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
もち
8
2年くらい積読していたもの。 もっと早くに読んで、心を抉られておくべきだったと思う。 なかなかにおもしろかった。三島が天才なのもよくわかった。翻訳に関する書物を読み漁りたいものだ。2016/04/08
サアベドラ
6
翻訳と言葉遊びに熱中するあまりに一線を踏み越えてしまった翻訳家の自画自賛と他者批判のようなもの。一応翻訳テクニック的なことも書いてあるけど、ほんの気持ち程度しかなくあまり役に立たない。原文の読解力も日本語の表現力も凄まじいが、いかんせんアクが強すぎて正直ついて行けない。一字一句原文そのままの直訳も売り物として失格だけど、この人のように「正しい解釈」の名分のもとにもはや一見日本語に見えない奇妙奇天烈な訳文を仕立てあげるのもそれはそれでどうなんだろうと思う。2012/04/13
yasukotta
5
文芸翻訳の奥の深さ、難しさ、楽しさがわかりました。序章が総論で、そこを読むだけでも勉強になります。「昨日よりも今日のほうが、たとえほんのわずかでも上昇していなければならないと思う。ほんのほんのわずかの上昇は、細部へのこだわりによって可能になるのではあるまいか。」(p. 9)2019/08/17
Nobu A
5
図書館本読了。柳瀬尚紀が実際の翻訳の事例を挙げながら、彼だったらこのように訳すという比較をし、分かりやすく解説。拙い翻訳(彼は悪訳と呼ぶ)は確かに結構ある。残念ながら、学会の研究要旨対訳でも違和感があるのを時々散見する。三島由紀夫曰く、語学が出来ないから翻訳にケチがつけられないことはない。仮にも日本語であり、日本語の文章なので自分の判断でいい翻訳を識別できるとか。筆者の「翻訳は精読の理想の形」というのは目に鱗。自分自身、日本語も英語も中途半端だが、言語にはもっと敏感になりたいと思った。2015/11/17
脳疣沼
5
柳瀬尚紀が影響を受けた人たち(吉田健一や加藤郁乎、吉増剛造、芥川龍之介などなど)のことを知ることができる。他人の翻訳に関しては相変わらず辛口だが、しかし、批判されている翻訳を見ると、確かに酷いものが多い。物事をとことん突き詰めて考える大切さを学ぶことができる。2014/10/28