出版社内容情報
日中戦争において,日本軍は当時の中国の首都,南京を激戦のすえ攻略した.その際に発生したのが,いわゆる南京大虐殺事件である.なぜ起きたのか,その全貌はどのようなものだったのか,そしていま,わたしたちはどう考えるべきなのか.外国人史料を含めた史料群を博捜し,分析した著者が歴史をたどり,全体像を解きあかす.
内容説明
日中戦争において、日本は当時の中国の首都、南京を激戦のすえ攻略した。このときに発生した、いわゆる「南京大虐殺」は重大な戦争犯罪として、いまも論議の的になっている。著者は、攻略戦の発端から説きおこし、外国人記録を含めた史料群を博捜し分析して、その全体像を描き出していく。現代史の焦点を衝く待望の歴史叙述。
目次
序 何がどう裁かれたのか―東京裁判と南京軍事法廷
1 南京渡洋爆撃の衝撃
2 上海派遣軍、独断で南京へ向かう
3 近郊農村で何が起きたか―波状進軍がもたらした被害
4 南京陥落―徹底した包囲殲滅戦
5 「残敵掃蕩」の実相―南京難民区国際委員会の記録
6 事件の全貌、そして国際的影響を考える
結びにかえて―いま問われているのは何か
著者等紹介
笠原十九司[カサハラトクシ]
1944年群馬県に生まれる。東京教育大学文学部卒業。専攻、中国近現代史。現在、都留文科大学文学部教授
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
297
事件の命名だが、単に「南京事件」といっただけでは、小競り合いのようなものを想像してしまう。ここは、はっきりと「南京大虐殺事件」というべきだろう。それにしても、聞きしにまさる有様である。日本軍によって殺された中国の将兵がとんでもないくらいに多数。民間人にいたっては、糧食を奪われ、次々に殺戮され、あげくには家に火をかけられる。女性たちは強姦され、輪姦され、そしてやはり殺される。これらの殺戮は国際法に違反しているばかりか、軍の方針をも無視して突き進んでいたのである。これが皇軍兵士のやることなのか。とっくに⇒ 2025/08/29
松本直哉
31
功名心に駆られた司令官、転戦に次ぐ転戦で困憊し不満の鬱積した兵士たち、軍中央の意向を無視した抜け駆け…多くの要因が複合した悲劇のプロセスを丁寧にたどる。入城式というパフォーマンスのためだけの残敵掃討。彼らは戦争をやっているつもりなのだろうが我々には殺戮にしか見えないという目撃者の冷めた証言が厳しい。強姦の恐怖に怯える多数の女性たちを保護したアメリカ人の女性が帰国後精神を病んで自殺したというのも読むのが辛くなる。2017/01/29
coolflat
25
略奪・強姦・虐殺の嵐。日本軍を神格化する言説が、70年以上たってもなおまかりとおるのか信じられなくなる。やはり、“政府と国民が戦争責任を追及する国民運動を展開していれば、そうした南京事件の全貌と責任者の解明も可能であったと思われるが、日本政府ならびに国民はそれを回避してしまった。そのこともあって、東京裁判と南京軍事法廷で裁かれた南京事件の事実に対する歴史認識は、多くの日本国民には定着しなかった”という一文に尽きる。戦争を総括しなかったから、現在の極右政権が生まれた。そういう意味で、祖父母世代、親世代を恨む2016/05/01
寝落ち6段
22
南京事件はあったのか、なかったのか。当事者のほとんどが他界し、当時の文書も廃棄されてしまっているため、完全なる解明はできないだろう。死者数も明らかに過大な数字を出すものもある。しかし、司令部の無能さで、兵站もなく、無計画に進軍させられていた軍隊があり、殺害・略奪等が行われたのは事実がある。戦争というのは、相手を蹂躙する行為である。命を賭けながら戦っていると、侵攻先の人間を格下として扱ってしまう。その後世に生きる我々は、戦争の恐ろしさを知ることで、二度と起こしてはならないと学ばなければならない。2022/03/05
山口透析鉄
21
また市の図書館本より。著者は家永三郎教科書裁判にも関わった方で、本多勝一氏の著書等にも出てきます。 宣戦布告もなしに始まる南京市への爆撃から始まり、日本陸軍で野心を持っていた将校が暴走して始まった作戦に真っ当な指示系統もなく、無理して南京を攻略させた結果が現地での略奪・放火・大量殺戮・性犯罪につながっていった様が一次資料を駆使して網羅的に書かれていて、戦時下のホロコーストの具体例がわかるような新書になっています。 まさに今だとガザ地区に対するイスラエル軍を彷彿とさせる殲滅作戦でした。(以下コメント欄に)2025/09/08