内容説明
国家が市場に介入する後期資本主義の時代において、政治・行政システムが経済システムの危機に対処不能となり、大衆の忠誠を維持できなくなる「正統化の危機」。それは社会全体から統合の基盤が失われる現代特有の構造的な現象である。ルーマンとの論争を経て、諸システムにおける危機の連鎖を理論的に分析した1973年の著作。
目次
第1章 社会科学的な危機の概念(システムと生活世界;社会システムのいくつかの構成要素;社会の組織原理の例示;システム危機―自由主義的資本主義における危機循環を例とする解説)
第2章 後期資本主義における危機の傾向(後期資本主義の記述的なモデル;後期資本主義的成長から帰結する問題;ありうべき危機の傾向の分類;経済的な危機の定理について;合理性の危機の定理について;正統化の危機の定理について;動機づけの危機の定理について;回顧)
第3章 正統化問題の論理によせて(マックス・ヴェーバーの正統化の概念;実践的問題の真偽決定可能性;普遍化可能な利益の抑圧のモデル;個人の終焉?;複雑性とデモクラシー;理性に与する党派性)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
34
社会的に生産された富がいかにして不平等に、にもかかわらず正統に分配されうるのかという問題は、抗事実的な妥当請求にたいするイデオロギー的防衛によって一時的に解決される(44頁)。経済は周期的にくりかえされる危機・恐慌をくぐり抜けて成長する。階級構造が、 階級利害の矛盾をシステムの要請の矛盾に(傍点) 変化させたからである(54頁)。政治システムは、資本主義の発展過程において、経済システムのみならず社会文化システムのなかにまでみずからの境界を押し広げてきた(89頁)。2020/05/16
いとう・しんご singoito2
9
正否は不明ですが、「公的セクタ」を指定管理制度とか民営化などと読み替えたり、「政治・行政システム」と「行政システム」を同じと割り切って読み替えたりして読み進めました。利潤率低下に伴う資本主義の失速P59を後期資本主義とし、生態系のバランスP78の限界を指摘する慧眼に敬服。社会学的システム論という一種の決定論を退けて、コミュニケーション倫理を主張するところにハーバーマスの真骨頂を感じました。2022/09/15
Happy Like a Honeybee
9
先進国の病理を研究した一冊である。 公共圏が政治システムの存続に関わっている。 それはソ連崩壊の要因であったが、ハーバーマスは1973年に本書で記している。 右肩上がりを想定した計画経済であるが、日本では年金制度など隘路に陥っている。 失業者や受刑者など資本主義の就業制度における異分子たち。 労働市場を通じて再生産されない階層に対する限りあるある予算。 興味深い指摘も多々あるが、病理への処方箋が課題となろう。2018/03/24
ぷほは
8
ここで言ってる「後期資本主義」つーのは要するに福祉国家のことで、ここからどんな「危機」(リスクではない)が有りうるのかって論考。ルーマンに対し「俺は古きよきヨーロッパ人の態度捨てないもん!」とアドルノに乗っかり言ってる。ミュンヘン五輪の翌年刊行ということで市民芸術に対する言及もあったり。で、この後時代がどうなったかというと第一次石油危機により文字通り福祉国家は「危機」に直面、英サッチャーや米レーガンに続き西独も社会保障費の負担に苦しむように。まそっからはルーマン『福祉国家における政治理論』参照ってことで。2018/02/10
ぷほは
5
再再読。「後期資本主義」はゾンバルト由来だったか。オッフェら若手と組んだ共同研究の成果だったということも忘れていた。国家の市場への介入の問題を文化にまで結び付けていく道筋に「正統化」を据える手捌きは流石フランクフルト学派「第二世代」といったところ。しかしマルクスからウェーバーの接続があんまり上手くいってないため、やはり抽象的なレベルでの個々の議論を概括した中間考察としての位置づけが相応しい著作。ってか、たぶんハーバーマス先生はそんな本ばっかなような気が。社会理論は常に未完のプロジェクトであるしかない……。2022/01/21
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