出版社内容情報
昭和初期の小作争議が頻発した時代、農政官として出発した柳田は、農村の疲弊と農民の貧困を、都市との関係でとらえた。歴史や文化の全体をみつめ、具体的な希望として農民による協同組合運営を提言。現代においても示唆に富む一書。(解説=赤坂憲雄)
内容説明
昭和初期の小作争議が頻発した時代、農政官として出発した柳田は、農村の疲弊と農民の貧困を、農村内部の問題としてではなく、都市との関係でとらえた。田舎から都市への人の流入を歴史的にたどり、文化全体をみつめるなかで、具体的な希望として農民による協同組合運営や、地方都市間の連携を提言。現代においても示唆に富む。初文庫化。
目次
第1章 都市成長と農民
第2章 農村衰微の実相
第3章 文化の中央集権
第4章 町風・田舎風
第5章 農民離村の歴史
第6章 水呑百姓の増加
第7章 小作問題の前途
第8章 指導せられざる組合心
第9章 自治教育の欠陥とその補充
第10章 予言よりも計画
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
109
最近岩波文庫に柳田の著作が少しづつ納められています。この著作もその最新版ですが、書かれた当時のことが現在にも当てはまるような状況になっていてタイミング的にはぴったりでした。柳田がこの著作を書いた当時は農政官ということで各地の農村を廻っていたということで、フィールドワーク的な感じもします。当時農業は一番の産業であったことにもかかわらず、その従事している人々の格差が大きかったことも書かれています。「文化の中央集権」「農民離村の歴史」など現在の状況を見るかのようです。2017/12/14
うえぽん
49
昭和4年に市民講座のため書き下ろされた著作。農村衰微の時代に都市と農村の関係性を説いた。農民の移転の自由は実際には存在し、村が都人の血の水上でありつつ、都は多くの田舎人の心の故郷という連続性は、中国や西洋の隔絶された都市空間とは異なるとする。農民組合は地価下落を予想して自作農創設に反対したが、入会等による土地の共同管理の歴史に鑑み、労力の配置調整や地権の財産化防止のため、良心ある農民組合の発展に期待していた。国との親密度を巡り互いに敵対してきた都市が、分権により周辺部を含めて連携し合うとの予測も興味深い。2024/12/28
roughfractus02
12
関東大震災後江戸の街並みが崩壊し、西洋的な都市化で農産物の自給が激減し、人とモノの流通が都市に集中すると同時に農村の荒廃が拡大する昭和初期、著者は都市と農村を対立的に捉えるマルクス主義者の主張を念頭に、都市周辺に増加する中都市(郊外)や田園都市(田園調布や新しき村計画等)がさらに都市化を拡大しつつある動向を注視する。本書は当時の農政や法を検討し、新たな社会観として農村に共同所有の考えに基づく協同組合の設置を促す。また、農閑期に出稼ぎせずとも良い地方での小工業を奨励すると共に自立的な農村教育も提案している。2025/02/23
うえ
10
「私の想像では、衣食住の材料を自分の手で作らぬということ、すなわち土の生産から離れたという心細さが、人をにわかに不安にもまた鋭敏にもしたのではないかと思う」「本当はこのように肥料を莫大に要求する国の方が珍しいのである」「現在の共産思想の討究不足、無茶で人ばかり苦しめてしかも実現の不可能であることを、主張するだけならばどれほど勇敢であってもよいが、そのためにこの国民が久遠の歳月にわたって、村で互いに助けて辛うじて活きて来た事実までを、ウソだと言わんと欲する態度を示すことは、良心も同情もない話である」2017/11/13
しゅう
4
農地改革による自作農への変化が、農村社会を大きく変えてしまったことを強く実感する。各農民が土地を持つことにより、農地は財産としての価値を持ち、土地と生業の間にあった関係が切り離されてしまった。 山野河海の入会利用は農村の大きな特徴であったが、それも解体された。都市と同じ価値観のもとに農村社会も扱われたことで、様々な矛盾が生じているのだと思う。 民主化されたいまの日本で、柳田のいう「固有の共産制度」の価値を見直し、いかにして地域で実践することができるか。ますます重要なテーマになると感じた。2023/02/05
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