出版社内容情報
「僕は貴族の生まれです。下僕には身を落とせません」──スペイン山中で族長がアルフォンソたちに明かす波瀾の半生。シドニア公爵夫人の秘密、厄介者ブスケロスの騒動、神に見棄てられた男の悲劇など、物語は次なる物語を生み、時に語り手も替えつつ、六十一日間続く。ポーランドの鬼才ポトツキが残した幻の長篇、初の全訳。(全三冊)
内容説明
「僕は貴族の生まれです。下僕には身を落とせません」―スペイン山中で族長が明かす波乱の半生。シドニア公爵夫人の秘密、厄介者ブスケロスの騒動、神に見棄てられた男の悲劇など、物語は次なる物語を生み、時に語り手も変えつつ、六十一日間続く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
98
中巻は全て族長の話で占められ、アルフォンソ以上に主人公的。エレオノーラの身の上話あたりからいよいよ語り階層の深みにのめり込む感覚が醍醐味なのだろう。話を引っ掻き回さずにはいられない詮索家ブスケロスや、女たらしなトレドの騎士はエンターテイメント性抜群で、ベタなロマンスに捻りが入る。巻末の成立背景もネタバレなしなので読むべし。話のスケールに押し潰されるポトツキの苦悩に触れると、インクに執念を燃やす族長の父親や、百巻もの本を書くディエゴ・エルバスが台無しにされるくだりに作者の不安や強迫観念が宿っているかのよう。2025/01/12
KAZOO
92
ここでは、第三と第四のデカメロンということでの話が綴られています。私はあまりもう人の名前をいちいち確認せずに物語の筋だけを読んでいくことにしました。そうしないと時間がかかるのと訳が分からなくなりそうで、その物語だけを楽しみました。様々な不思議な出来事が千夜一夜のような感じです。また入れ子構造の最たるもののようです。2023/12/16
syaori
65
ジプシーの族長の語りが続きます。それは、物語の人物が自分の物語を語り出し、またその中の一人がと続いていって、目の前に現れる美しい扉を開きながら豪奢な屋敷を彷徨っているような楽しさ。そしてそれはマドリードの貴族や裕福な商人たちの恋や名誉を巡る雅で俗な人間模様と複雑で不可思議な人間の心と業で彩られていて、その可笑しさと哀しさに目を奪われてしまいます。また華やかな首都を巡る語りは緩やかに重なっていて、目が変わると同じ出来事や人物の見え方が変わってくるのも本巻の読み所。青年の族長が思い人の心を得たところで次巻へ。2023/02/28
藤月はな(灯れ松明の火)
62
ジプシー族長、アバドロの語りは緩く、リンクしているようで、リンクしていない?印象深いのは、『ロミオとジュリエット』の対立する一族の為に翻弄されるロペとイネスの愛の物語はラストの一文。この一文は、長年、抱き続けてきた恨みに対し、その恨みを変わらざるを得なくする環境への人間の有り方を的確に表現していると思う。そして神に見棄てられたブラス・エルバスの父、ディエゴの紆余曲折を経て名声と富を手にしてから着手した生活激変プロジェクトが頓挫した理由が本当に身近な失敗過ぎて悶絶。2023/01/15
彩菜
45
前巻と変わらず身の上語りに次ぐ身の上語りで続いて行く物語は、ここで一人の騎士の人生を描き出します。また幾つもの身の上語りの中に少しずつ親から子へ、世代から次の世代へ引き継がれる遺産というテーマが忍び込むようです。不義の疑惑をかけられた女の娘がその夫からまたかけられる不義の疑い、父祖の代から続く家同士の不仲、父から受け継がれる聖なる負債、そしてある女公爵が父から引き継いだひとつの秘密が騎士の幸福に関わってきます。さて若者もその血を引くというゴメレス一族の秘密と謎は、彼に何をもたらすのでしょう。次巻へ。2023/07/03