出版社内容情報
一九四*年、アルジェリアのオランにペストが発生した。市門は閉ざされ、疫病が猛威を振るう。絶望と混乱と不正が満ちる中、医師リユーは治療に奔走し、それを助ける保険隊も結成される。理不尽な悪に抗う人びとの心理と言動を描き、巨大な災禍のたびに読み直される傑作。国際的なカミュ研究者による新訳が、作品の魅力を蘇らせる。
内容説明
一九四*年、アルジェリアのオランにペストが発生した。外部と遮断された町で、猛威を振るう疫病を前に、医師には、一市民には、無神論者には、何ができるのか?理不尽で巨大な悪に苦しみ抗う人びとの心理と言動を描き、災禍のたびに読み直される現代の古典。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
127
昨年に旧訳で読んだ際は、ペストを新型コロナ流行と比較する感想を書いた。しかし新訳で読み返すと、むしろ巨大な災害に直面した人の生き方を問いかけているようだ。誰もが疫病を免れ得ないオラン市民は他人に感染させないため、常に意識を張り詰めているよう求められている。そんな状態に疲れ果てた人びとは酒や快楽に走ったり市外へ逃げ出そうとするが、主人公リユーと仲間たちは何とか踏みとどまっている。彼らは英雄ではないが、苦痛と死の恐怖に苛まれながら自由を守る戦いに身を投じるのだ。平凡な市民がどこまで不条理に抗して戦えるのかと。2021/08/20
りんご
50
しみじみと、つまらない。だから逆に現実味があるな。確たる治療薬がなく、隔離して、対症療法行って、あとは辛抱する。死ぬやつは死んで、まあなんとなく収束していく。ファー。隔離なので、考える時間が無限にあります。色々考えて、それが言語化されてるところが哲学的だったり、現代の我々への予言のようにも感じます。ドキュメンタリーっぽさがありますね。読む意義はありましたが、あー、エンタメパンデミック作品が無性に読みたくなる!2024/11/14
翔
19
我々は本書の次の内容を何度も噛み締める必要があるだろう。そして学び続ける必要性はここにある。「この世の悪はほとんどつねに無知から来るのだ。そして善意は、もしそれが見識を備えていなければ、悪意と同じだけの害をなすかもしれない。人間は邪悪であるよりむしろ善良であり、問題は実のところそこにはない。しかし、彼らは多かれ少なかれ無知であり、その程度の差がいわゆる悪徳と美徳の分かれ目なのだ。もっとも救いがたい悪徳は、すべてを知っていると思い込み、人を殺すことをも自分に許す無知である。殺人者の心は盲いている。」2022/01/11
ムーミン2号
16
コロナ禍だから読むべき本、という捉え方は、この本を一読すれば、そんなことに拘泥しなくとも、と思うことだろう。個人的にはカフカの『変身』とともに不条理文学の最右翼とみなされることにも何となく違和感を覚える(両作品とも「不条理」だけでは括れない)。読み手、読む時によっていろいろな解釈が可能な本作は、やはり世界文学であると感心するばかりである。第4部に置かれた、タルーという登場人物の告白は、この作品の白眉と感じた。その部分は何度でも読み返して考えることを更新していかなければならない。2021/06/21
おだまん
13
コロナのときから読んでみたかった作品。渦中に読んでいたらまたちょっと印象が違っていたかもしれない。ですが、異邦人を読んで続けて読むとただのパンデミック小説ではなく、カミュの不条理の乗り越えに進捗のある作品と見ることができました。2025/03/30