内容説明
早朝、汽車に乗り込んだ「きみ」はローマに住む愛人とパリで同棲する決意をしていた。「きみ」の内面はローマを背景とした愛の歓びに彩られていたが、旅の疲労とともに…。一九五〇年代の文壇に二人称の語りで颯爽と登場したフランス小説。ルノードー賞受賞作。
著者等紹介
ビュトール,ミシェル[ビュトール,ミシェル][Butor,Michel]
『心変わり』でルノードー賞受賞のフランスの作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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syaori
67
ローマの愛人との生活を決意しパリーローマの鉄道に乗る男性を追って物語が進みます。彼の脳裏に去来するのは、妻や家庭、愛人との記憶。そこから、ローマでの逢引は興味のない仕事への復讐でもあったことなどこの愛の欺瞞が露わになり、若返りと自由への道行きは「だれを愛しているのか」「なにが欲しいのか」という自身の内部への冥界下りの様相を呈してゆきます。作者の採用する二人称の語りは、一人称より遠く三人称より近しい距離感で、その絶妙な場所から、自分が積み重ねてきた歳月と人生を受け入れ変容してゆく彼の心の旅を堪能できました。2025/03/12
藤月はな(灯れ松明の火)
43
語られる対象が「きみ」と呼ばれて展開される、珍しい二人称小説。「きみ」はローマに住む愛人と住もうと思い、列車に乗り込むが、目的地が近づくにつれ、思いはめくるめく、変わっていく。列車に乗っている時間は一日ほどなのに思い出す思い出は数十年分という所が半日の描写に長い巻を重ねた『失われた時をもとめて』とは対照的である。そして思い出す思い出が、ローマに住む女の無知と無理解への失望、時々、見透かす様な嘲弄の言動を取っていると思わしき家族という所に見当違いな期待への失望から来る失望を淡々、且つ抉り出すように描写する。2013/11/05
マウリツィウス
19
【時空様式停滞】フランス現代文学の黎明はこの領域に実体化した象徴詩とも呼べるがその変質化でもありそれぞれ異なる様相を呈するのは文学刷新への試みのバリエーションが錯綜視され明滅、誇大的意味は剥奪され新しい波は伝統を形式化して意図導入している。虚構性質言及に該当する架空語法の詳細はアバンチュールへと出かける。滑走通路を見出した語群集成は天空を轟きジョイス異次元を膨張させる提言だ。ポストモダンと一線を画す教養と智慧は円環と永遠、つまりボルヘス論を自覚意識化、紡がれた記述法は既に新時代の予期完成を果たす実験体論。2013/05/24
ミツ
17
追悼を兼ねて。パリからローマへ向かう列車の旅、とりとめもなく去来する数多の回想と内省、それによって浮かび上がる《都市の中の都市》ローマの壮麗で美しい景観と美しい愛人との日々。“きみ”という二人称で語りかけられる一人の男の夢想が、とても静かで、そして緩やかに溶解してゆく一連の過程が精緻な叙述で描かれる。450ページの長さで事件らしい事件は起きず、退屈なことこの上ないが、なかなかどうして最後まで読み通せてしまうものである。ただただ長旅を終えたあとのあの疲労にも似た倦怠感だけがずっしりと残っている。2016/09/17
オザマチ
16
長旅と疲労の中で、物事に対する考え方が徐々に移り変わっていく様が面白い。2021/09/19