出版社内容情報
「僕は旅に出るよ、リザヴェータ。新鮮な空気が必要なんだ」 芸術への愛と市民的生活との間で葛藤する繊細な青年トーニオ。自己を求めて遷ろい、かつて憧れた二人の幻影を見た彼は、何を悟るのか。トーマス・マン(1875-1955)の自画像にして数多の作家が愛読した名作が、原文のニュアンスに忠実、かつ読みやすい訳で蘇る。
内容説明
「僕は旅に出るよ、リザヴェータ。新鮮な空気が必要なんだ」芸術への愛と市民的生活との間で葛藤する繊細な青年トーニオ。自己を求めて遷ろい、かつて憧れた二人の幻影を旅先で見た彼は、何を悟るのか。トーマス・マン(1875‐1955)の自画像にして、数多の作家が愛読した名作が、原文のニュアンスに忠実、かつ読みやすい訳で蘇る。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふぁるく
16
『魔の山』に苦戦し、道を逸れた。描写のひとつひとつに惚れながら、「市民愛」を語る主人公。最後の段落に深く心が洗われた。解説もわかりやすく、訳も忠実な再現に努めたとのこと。ページも一周目で気付なかった箇所を一度読み返したりし、いい体験になった2025/08/15
qwer0987
13
長年親しんできた実吉捷郎訳からの変更とあって、さっそく手にしてみた。内容は過去にも触れているが、訳が変わっても、芸術と市民というどちらにも属せないトーニオが両方の世界を愛し、両方の世界に属していこうと自己確認していく過程が胸を打つ。訳もすばらしく、丁寧に整理して語を組み立てており、文章に気を配っているのが好印象。勢いのある実吉訳や、若々しい印象を受ける河出の平野訳もすばらしいが、本作も岩波という長くスタンダードになるであろうレーベルにふさわしい誠実な訳業であった。2025/07/22
みり
3
新訳として、十分に期待を満たすものだった。読みやすかった。2025/07/29
Ryosuke Tanaka
2
『ヴェニスに死す』が南の海水浴場で美に溺れて死ぬ話なら、これは北の海水浴場で生に回帰する話。こじんまりまとまっていて綺麗だが、実吉訳の「ヴェニス」を読んだ時と同じく、中身が自分とレレバントであるというより受容史が面白い。デモーニッシュな芸術家に感嘆せども憧れず、という結びは好きだが、そこは出発点であってその先をどう芯を持って生きるか、みたいなことにむしろ関心がある。リザヴェータのアトリエのあるシェリング通りはよく行く英書の古本屋があるところ。2025/08/06
たたまま
2
芸術家とか表現者を目指す人のための本。認識の発達によるある種の欲望や肉体性の喪失から生まれる虚無主義との争いを描く。解説が面白い。でも村上春樹と三島由紀夫が同じ悩みを抱えていたようには思えていない。村上春樹は役者の言葉を借りるなら初めから市民であって、もっと唯心論的というか、自我の力を違う方向で捉えているような気がする。2025/07/13