出版社内容情報
『宝島』で知られる作家スティーヴンソン。詩人ヴィヨンを主人公にした最初の短篇「その夜の宿」から、「水車屋のウィル」、そして、タヒチに伝わる摩訶不思議な話を題材にした晩年の南海物「声たちの島」まで、怪奇物、ユーモア物、奇譚など、散文の文体を徹底的に追求したストーリー・テラーが織り成す多彩なる短篇集。
内容説明
『宝島』で知られる作家スティーヴンソン(1850‐1894)。詩人のヴィヨンを主人公にした最初の短篇「その夜の宿から」、「水車屋のウイル」、そして南海を舞台にした晩年の摩訶不思議な話「壜の小鬼」と「声たちの島」まで、寓話、ユーモア物、奇譚など、散文の文体を徹底的に追求した作家が織り成す多彩な短篇7篇を精選。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
33
宝探しの冒険に出なくても薬で二重人格にならなくても面白いスティーブンソンの短編集。少し叙情的な物語から怪奇譚、南海の島々を舞台にした物語まで作者の多彩な語り口、エンターティナーっぷりが楽しめます。どれも面白かったのですが、ある村での興業が上手くいかず、宿からも締め出された旅芸人夫婦が夫婦喧嘩の仲裁をする『天の摂理とギター』、南海の島々を舞台に呪術や悪魔が出てくる『声たちの島』『壜の小鬼』が特に好きでした。この3作は、奥様が旦那様を影から支えたり窮地から救ったりしてくれていて、そこが好きなのかもしれません。2016/06/01
白黒豆黄昏ぞんび
19
短編集です。善と悪が全体のテーマなのかな。悪魔が出てきても最後には善が勝つようなお話が多い。「天の摂理とギター」の夫婦が素敵。苦労はしても支え合いながら生きたいように生きる幸福な夫婦。2015/03/13
H2A
17
「その夜の宿」はなんとヴィヨンの話。ならず者の詩聖という造形が、あのおどろおどろしい詩を彷彿とさせる。確かにこんな詩人像があるのだと感心。「天の摂理とギター」は旅芸人夫婦の騒動を軽妙に語る。マーカイムは自分の分身との対話とやらにちょっとがっかり。「壜の小鬼」はこの短編集でも最もおもしろい一篇。願望を叶える壜を手にした途端にみまわれる幸運と不幸、それに壜を売買の決め事がユニークで思わぬ展開を引き起こす。『水車小屋のウィル』は香り高く佳品で、たとえようもない。これは読めて良かった。シュティフターのようだ。 2016/07/16
藤月はな(灯れ松明の火)
17
「水車小屋のウィル」は彼が待ち望んでいたものに人間にとって忌避もするが懐かしい必然の事象を改めて考えさせられました。「天の摂理とギター」は人が求めてやまない芸術の存在を説いています。「マーカイム」はポーの「ウィリアム・ウィルソン」のようですが悪に堕落した主人公が最後の最後で自分の善を貫くという結末に救われます。「瓶の小鬼」のロマンスと駆け引き、不幸が無くなった時の人の酷薄さも秀逸です。「ねじれ首のジャネット」の死体なのに動いているジャネットの描写が怖かったですT-T2012/07/05
フリウリ
14
「ジキルとハイド」でも感じたのですが、寂しい風景のなかを風が通り抜けていくような描写がうまく、暗鬱で奇怪な雰囲気の小説が得意なのかと思いきや、妙に陽気でハッピーな結末があったり、南国ムード(南国に移住したせいもあるが)小説があったりと、なかなか尻尾をつかませません。幽霊、鬼、死神といった要素は、19世紀後半の電灯の普及により、現実世界に明るみと暗み、光と影、内と外などの二元性が日常化したことが影響しているのでは、と思ったのですが、そんな単純なことではないだろう、とも思います。1877~1893年刊。72024/08/29