内容説明
モームの実体験に基づくスパイ小説の古典。第一次大戦初期、作者の分身アシェンデンはスイスで各国情報員と競い、その後シベリア鉄道経由でロシア革命を目撃する。はげしい工作合戦の中での駆引き・裏切り・愛と滅びの人間劇。連作読切形式。一九二八年刊。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
30
英国の諜報部で活躍していたモームが実体験を下敷きに描いた古典的スパイ小説。スイス、革命前夜のロシアなど転々と各地を巡り、誰がスパイかを炙り出し、目標を誘き出す為にじわじわと周りから追い詰め、秘密裏に情報を操作するある時は作家、また、ある時はスパイのアシェンデン。任務遂行のためには非情にもなるがユーモアがあり、父親でもあるアッシェンデンはグリアム・グレーンの「ヒューマン・ファクター」の主人公とも重なります。スパイに翻弄されながらも逞しく、スパイよりも人間感情を割り切っている民間人との対比も興味深かったです。2012/11/08
みつ
29
第一次世界大戦時の英国情報部員(兼小説家)のアシェンデンを主人公とした連作短編。16の部分よりなるが、実際はいくつかの短編が集まりひとつの物語を成す体裁。アシェンデンを取り巻く状況は流血や殺人も匂わせながらも、実際の使命は場所を点々としながらその都度相手と接触し、重要な情報を引き出させるように動くというもの。本筋とは関係ない語りが占める『英国大使閣下』を筆頭にモームの人間観察力がここでも活きる。作者自身も情報部に勤務したとのことであり、その体験と実作品との関係を述べた「序文」が、彼の小説作法を明確にする。2023/12/11
KAZOO
22
一つの長編かと思いましたが、アシェンデンという人物を主人公とした連作ものですね。もともとはモームの経験などがもとになっているということで、それこそ出版するときには、今日本でも言われている公務員の秘密保護法の観点からチャーチルのチェックが入った作品もあったということのようです。内容的には短編であるものの、結構起伏に富んだ物語があります。2014/02/16
sheemer
20
月と六ペンスに続き2作目。著者は駐仏大使館付法律顧問の家に生まれ、兄モーム卿は司法長官である。エリート貴族だが、彼はスパイになった。ジョン・ル・カレと似た立ち位置か。本作は殆どが実話のスパイ活動に基づくという短編集で、時系列に沿って流れ、なんと最終段のクライマックスはロシアの10月革命前夜・当夜・翌日である。そこにラブストーリーが重なり、各人物の運命が定まっていく。著述は一貫してシニカルで冷徹、かつ死と茶番が表裏一体、ユーモラスで面白い。スパイアクション映画の実体とはこういうものかと実感する名作。お薦め。2026/04/15
イロハニ
20
邦訳は複数有るがスパイ物として本作を読むなら、この岡田訳を推す。訳の妙か?諜報稼業が内包するヤバさのスリリングな訳出、その戦禍の描出も生々しい。これは“安楽椅子参戦”の謗りを免れたい様な序文の中だが連作短編の本題に入ると戦火の緊迫は同等であると悟らされる。訳者は冷戦時に外報部記者、自身の巻末解説も一興。大家モームがその描写に秀逸を極めた数多の人間群像の一端に戦時の緊張と非情な死の衣を纏わせた異色の一作。派手な活劇は無いが決して流血が無い訳ではない。心理的活劇という面で007に比肩する。流石元祖スパイ小説。2022/10/14




