内容説明
長篇小説『人間の絆』『月と六ペンス』の作家サマセット・モーム(一八七四‐一九六五)は、絶妙な語り口と鋭い人間描写で読者を魅了する優れた短篇小説も数多く残している。希代のストーリーテラー・モームの魅力を存分に楽しめる作品を厳選して収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
109
先日行方先生の「英語翻訳術」でモームの短編「大佐の奥方」を読んだので再度手に取りました。上下巻で18編の作品が収められていますが、この上巻では6作です。いわゆる有名な「雨」と「赤毛」は収められてはいません。「エドワード・バーナードの転落」「手紙」はいわゆる南海物で視点を変えると楽しめます。また最近読んだ童話の「九月姫」が収められていました。すっかり忘れています。2025/09/15
ehirano1
93
「エドワード・バーナードの転落」について。当時のシカゴの常識や価値観からは確かに「転落」という言葉がふさわしいのかも知れません。しかし、各々所々で常識や価値観が独自に存在することを鑑みると、エドワードの大々的なキャリアチェンジは決して「転落」などではなく「転機」であり且つ、僥倖だったのではないかと思います。働き方改革を施行しなければならなくなったこのご時世、もう一度価値観というのは相対的であることを思い出させてくれます。2023/07/08
ももたろう
51
モームの短編集はあまりに面白い。彼の文章は分かりやすく明快で、重々しいテーマでも彼特有のユーモアと軽快さで読むものを惹きつける。この作品の本質からは外れるけど、最も素晴らしいと思うのは彼の観察眼。特に人物描写の細かさが本当に勉強になる。背丈、顔立ち、服装、表情、言動、全てを具に観察し、そこから人間の心理を鋭く分析し、明快に突いてくる。これは小説として楽しませてもらえるだけでなく、日々仕事をしていく上で大変重要だと考えている要素。自分もこういう作品に親しむ事で、観察力を高めていきたい。下巻が楽しみだなあ。2016/11/16
Apple
41
「誰にでも楽しめる」を基準に選ばれた短編集のようで、どれも人間愛とユーモアに満ちていて、またストーリーも面白く、満足度の高い一冊でした。「エドワード•バーナードの転落」はシカゴからタヒチに移り住んだ友人を、堕落したと非難し哀れむ主人公の視点から語られます。自分の時間を取り戻し、本当の人生を謳歌するかのようなエドワードの言葉には、私自身も身につまされるものがありました。「手紙」「環境の力」はサスペンス風味で、後者では"現地妻"の策略的な動きと結末にゾクっとしました。2025/08/04
コジ
37
★★★★☆ 久しぶりのモームの短編集。どうやら上巻は女性に厳しい目を向けた作品の特集に思える。だからと言って、決して辛辣な言葉を連ねるような内容ではなく、女性の計算高さなど男性が知りたくない面をモーム得意の鋭い人間観察で描きつつ、ユーモアのある落ちで閉める作品群となっている。この編成、編者はモームをよく研究していると言える。一部既読の作品もあったが、訳者が変わると作品の雰囲気も変わり新鮮な印象を持って読むことができた。こうなると、さらに既読作品の多い下巻がかなり期待できる。2019/11/05