出版社内容情報
越前敦賀の旅の宿、道連れの僧が語りだしたのは、若き日、飛騨山中の孤屋で遭遇した艶めかしくも奇怪な出来事であった。鏡花畢生の名作「高野聖」に、円熟の筆が冴える「眉かくしの霊」を併収した怪異譚二篇。本文の文字を大きく読みやすくし、新たな解説を加えた。解説=吉田精一/多田蔵人
内容説明
越前敦賀の旅の宿、道連れの僧が語りだしたのは、若き日、飛騨山中の孤家で遭遇した艶めかしくも奇怪な出来事であった。鏡花畢生の名作「高野聖」に、円熟の筆が冴える「眉かくしの霊」を併収した怪異譚二篇。本文の文字を大きく読みやすくし、新たな解説を加えた改版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
クプクプ
76
「高野聖」は、木曽の旅で、道を間違えてヒルに襲われたり、ヒキガエルが出てきたり、クマンバチが出てきたりと、生きものが沢山登場して、旅に彩りを添えていました。クマンバチは巣が出てきたので、恐らく現在のスズメバチのことだと解釈しました。主人公が、やや年配の女性と出会いますが、恐らく泉鏡花の好みの女性なのでしょう。旅と恋というテーマも、色気を感じました。また、私の父は愛知県出身なのですが、高野聖の木曽の方言が父の言葉と似ていて、もっと父から学ぼう、と思いました。私は関東育ちなので。楽しい読書になりました。2025/09/11
夜長月🌙新潮部
60
(読書会のための再読) 現代語版も出ていますがやはり文語調そのままで読んでもらいたい作品です。明治33年、120年以上前の作品ですから読みにくさはありますが、その文体が醸し出す雰囲気と妖女の色気は離しがたいものがあります。『蝶衣を纏うて、珠履を穿たば、正に驪山に入って陛下を相抱くべき豊肥妖艶の人が、その男に対する取廻しの優しさ、隔てなさ、深切さに、人事ながら嬉しくて、思わず涙が流れたのじゃ。』2024/04/10
藤月はな(灯れ松明の火)
59
再読。二つの作品に共通するのは美は魔ともなる事だ。「高野聖」での美しきお嬢さんは会ったばかりの僧と共に水浴びをし、甲斐甲斐しく、世話を焼く。その姿は性による差異やそれによって生じる苦悩と憤慨をまだ知らぬ童女のように無垢ですらある。だが、実は自分に情欲を抱いた男を動物に変えるキルケーのような一面を持つのだ。彼女の美は男にとっては罠である。しかし、彼女の無垢な本性は昔から変わってはいない。その心根と対象者との意思の不一致(情欲と客人としての対応)で起こる現象のギャップを「魔」と呼ぶのだと思った。2023/10/19
めしいらず
28
誘い込まれるように山深くへと入っていった僧侶が体験する怪異譚。まさに怖気を震う蛇と蛭の森。甲斐甲斐しく世話してくれる山家の美しい人妻との官能的なひととき。後に知る彼女の恐ろしい正体。美と官能の前で男どもが如何に無力であるのか。代表作と呼ばれるに相応しい風格を感じさせる「高野聖」。つぐみを食し口の端から血を滴らせる芸妓。誰もいない湯殿の中の女の気配。何度締めても気づけば開いている三つの蛇口。如何にも怪談らしい映像的なシーンにいつしか私もその世界へ取り込まれている「眉かくしの霊」。鏡花の美学に酔わされる二編。2025/07/10
かふ
23
鏡花の幻想譚は、近代化の汽車とか出てくるのだが、自然を喪失した都会から山奥へ旅することで失われた日本の文化へと尋ねいく。それは柳田国男がいう山の神であったり湖の女神だったりするのだろう。高野山の僧侶が怪奇な事件を旅人に語る『高野聖』は、僧が木の根を潜って冥界へと尋ねる。『古事記』の冥界下りを連想させる。冥界は蛇と蛭の山道なのだが、蛭の山というのがホラーだった。その山を抜け出して奇妙な宿に泊まるのだが、そこの女将がまた悩ましいのは常人ではないからで、僧侶の背中を流すシーンはエロスとタナトスを含んでいる。2023/12/14