出版社内容情報
越前敦賀の旅の宿、道連れの僧が語りだしたのは、若き日、飛騨山中の孤屋で遭遇した艶めかしくも奇怪な出来事であった。鏡花畢生の名作「高野聖」に、円熟の筆が冴える「眉かくしの霊」を併収した怪異譚二篇。本文の文字を大きく読みやすくし、新たな解説を加えた。解説=吉田精一/多田蔵人
内容説明
越前敦賀の旅の宿、道連れの僧が語りだしたのは、若き日、飛騨山中の孤家で遭遇した艶めかしくも奇怪な出来事であった。鏡花畢生の名作「高野聖」に、円熟の筆が冴える「眉かくしの霊」を併収した怪異譚二篇。本文の文字を大きく読みやすくし、新たな解説を加えた改版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜長月🌙@新潮部
59
(読書会のための再読) 現代語版も出ていますがやはり文語調そのままで読んでもらいたい作品です。明治33年、120年以上前の作品ですから読みにくさはありますが、その文体が醸し出す雰囲気と妖女の色気は離しがたいものがあります。『蝶衣を纏うて、珠履を穿たば、正に驪山に入って陛下を相抱くべき豊肥妖艶の人が、その男に対する取廻しの優しさ、隔てなさ、深切さに、人事ながら嬉しくて、思わず涙が流れたのじゃ。』2024/04/10
藤月はな(灯れ松明の火)
58
再読。二つの作品に共通するのは美は魔ともなる事だ。「高野聖」での美しきお嬢さんは会ったばかりの僧と共に水浴びをし、甲斐甲斐しく、世話を焼く。その姿は性による差異やそれによって生じる苦悩と憤慨をまだ知らぬ童女のように無垢ですらある。だが、実は自分に情欲を抱いた男を動物に変えるキルケーのような一面を持つのだ。彼女の美は男にとっては罠である。しかし、彼女の無垢な本性は昔から変わってはいない。その心根と対象者との意思の不一致(情欲と客人としての対応)で起こる現象のギャップを「魔」と呼ぶのだと思った。2023/10/19
かふ
23
鏡花の幻想譚は、近代化の汽車とか出てくるのだが、自然を喪失した都会から山奥へ旅することで失われた日本の文化へと尋ねいく。それは柳田国男がいう山の神であったり湖の女神だったりするのだろう。高野山の僧侶が怪奇な事件を旅人に語る『高野聖』は、僧が木の根を潜って冥界へと尋ねる。『古事記』の冥界下りを連想させる。冥界は蛇と蛭の山道なのだが、蛭の山というのがホラーだった。その山を抜け出して奇妙な宿に泊まるのだが、そこの女将がまた悩ましいのは常人ではないからで、僧侶の背中を流すシーンはエロスとタナトスを含んでいる。2023/12/14
春ドーナツ
15
たまたま14冊続けて電子書籍を読んだ。電子書籍の弱点は充電である。kindleをパソコンにつないで充電しているあいだ、虚空を見つめていればよいじゃないか、とあなたはいうかも知れない。活字中毒者(死語?)の私は積読塔から薄い本(コミケの同人誌ではなく)を見繕って活字に身を浸すことになる。去年は鏡花生誕百五十年であった。飛び石読書とだったけれど、ふたつの解説(哲学的と顕微鏡観察的)に目を通し、鏡花の底を知らない幽玄さにはたと膝を打つ。説話体はツァラトゥストラと共鳴する。意識の裏側を覗きこむようで怖気をふるう。2024/01/08
s - bill
3
若い頃には認識できませんでしたが、55歳の今再読すると、収録された2編のすごさ、面白さ、独自性がよくわかりました。読みにくさはありましたが、蛇が大の苦手な私としては背筋がムズムズするような場面もあり、幻想譚として単純に楽しむこともできました。一方「眉かくしの霊」の方は、かなり難しく感じました。色々な人の解説を参照しつつ、いつか再読してみます。2024/06/02
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