内容説明
昭和10年代の東京を舞台にして、ヒロインの起伏にとんだ日々を描いた『浮沈』、浅草の若い女性が逞しく生きる姿を活写した『踊子』。「蟲の声」「冬の夜がたり」「枯葉の記」は、散文詩の如き小品。戦時下に執筆され、終戦直後に発表、文豪の復活を告げた。時代をするどく批判した文学者・荷風による抵抗の文学。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
102
中編1作と短編1作、随筆のような小文が3篇収められています。浮沈が読みごたえがありました。戦時下に書かれたとのことですが、一人の女性のそれこそ題名通りの人生を過ごしていきます。いろいろ騙されたりしますが最後はいい男性と巡り合います。踊子はあまり印象には残りませんでしたが小文は散文詩のような荷風の作品にしては珍しいものでした。2019/12/29
藤月はな(灯れ松明の火)
77
第二次世界大戦争へと傾きつつある日本を舞台に、非難されるようになった職や嗜好に携わっていた人々の身の振り方を描いた短篇集。「浮沈」での寄る辺がなくなったさだ子の明確な意志もなく、流され、それでも情に抗えない姿に賛否両論はあるだろう。しかし、さだ子の身の振り方を通し、どの時代であっても生きていく等身大の人間の機微の揺らぎを明確に描き出していると思う。最も藤木だけでなく、越智という男もこれまた、打算的且つヒーロー気取りの嫌な男なのが日記から透けて見えるので少し、不安なのも事実だが・・・。2019/08/23
kawa
30
「浮沈」「踊子」ともに戦前の男女の道行きを描く中編。基本的には現代のそれと異なることのない男女の微妙かつ大胆な感情を、手練の職人芸で仕上げているというところか(女性が逞しい)。「浮沈」は主人公・さだ子のジェット・コースターのような浮き沈みにハラハラ半分、あきれ半分。「踊子」は主人公と義妹との不倫物語、義妹のあっけらかんとした性格、世相、回顧調文章などが相まって妙にカラッとしているのが印象的。両作とも当時の浅草・銀座辺りの風俗の様子や世相が興味深く描かれる。(「踊子」はNHK ラジオ・朗読にて)2019/10/08
屋根裏部屋のふくろう🦉
11
さだ子は夫の藤木が初めは嫌。やがて慕いその後不信感。そして離婚。弁護士の妾。そして越智との運命的な出会い。もはや時代は男は恋愛を求めず優劣凌駕をのみ求め、女も恋愛を求めず虚栄を求める時代となった。よって謙虚さを備え持ったさだ子は、越智によればこの時代の落伍者と言える。自分の居場所が無くなっていくことを知った越智は、下位志向により零落の生活を求め「過去の夢を思い出の甕に埋めて」しまおうと決める。自分を越智に仮託する荷風の波長に小生の波長合致す。『踊子』他短編は今回は略す。荷風の写実秀逸。2019/09/01
まこ
8
浮沈の藤木も踊子の語り手もダメ男なんだよな。さだ子はどうにかして逃げようし、千代美は語り手をうまく手玉に取る。戦前の昭和の話だがダメ男の扱い方は今に通じる。最後の小品は前の2本と打って変わって作者(?)の見た良いものをつれつれと綴る。2020/04/30
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- 和書
- 彼岸花が咲く島 文春文庫