内容説明
(一)時代の主流を形成してきた立身出世の欲望、(二)現実社会に飽きたらぬ、またそこからこぼれ落ちた人びとが紡いだ別世界の願望、(三)新たに登場した交通機関、通信手段と文学との関わり―三つの切り口による近代日本文学の森の旅案内。
目次
1 「立身出世」物語―「故郷」と都会の往還(「勉強ハ安楽ノ基礎」;女は出世の妨げか;「恋愛」という観念 ほか)
2 近代文学のなかの別世界―他界と異界のはなし(虚と実;露伴の「他界」;鏡花の「異界」 ほか)
3 移動の時代―「交通」のはなし(人力車―挽く人と乗る人;疾走する馬車;汽車―物語発生の磁場 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
48
立身出世、恋愛、電車などのキーワードから近代文学の発展を概観したもの。まだまだ読んだことのない作品は数知れず。この時代のダイナミズムは実に面白い。2016/03/10
壱萬参仟縁
31
JR線不通のN図書室より。学問は本当に立身出世のためにあるのか。二葉亭四迷は文三の問題を自分自身のものとして、文壇を離れ真理、人生問題の研究に(29頁)。私も二葉亭の疑問は高学歴ワープアでよくわかる。北村透谷は実世界の桎梏と戦うとき、救いは恋愛と考えた(43頁)。私は妄想会話を書いては放送局に送っていた経緯がある。生の充実とは明治末から大正にかけてのスローガンの一つ(61頁~)。家庭の和楽、家庭小説が流行(74頁)。藤村の時代、排他的で因襲に満ちた社会(よのなか)は、追放の手をゆるめなかった(88頁)。2021/08/17
川越読書旅団
27
近代に発刊された書籍を①「立身出世」物語、②近代文学の中の別世界、そして、③移動の時代に分け、それぞれの章で代表的な作品を紹介し、当時の人々の意識や生活がいかに文学作品に投影されてきたのか明瞭かつ興味深く解説する文学案内。購入して正解。2021/11/07
タカヒロ
8
本屋の岩波文庫コーナーにひっそり並ぶ一冊。よくある編年の近代文学史ではなく、近代における立身出世、異界、「交通」という3つのテーマで近代文学を論じる。坪内逍遙や二葉亭四迷以来の近代的テーマが、様々な作品を通じて論じられている。とりわけ最後の「交通」の章はあらゆるテクストにおいて物語を駆動する重要なモチーフたちだと思う。文庫の制約におさまるのが勿体ない。このコンセプトの専門書は無いものだろうか。あるならば手元に置きたい。読書の幅や視点を広げてくれる名著。2022/12/13
KAZOO
6
今までにない切り口で論じている日本文学論です。今までこの分野の本は紹介が主で、比較的無味乾燥な感じが多く、読み通すというよりも手引きみたいな感じで使用していた経験があります。岩波にしては珍しく、三つの切り口しかもそれを細分化した項目で興味を持って読ませてくれました。2013/02/11