出版社内容情報
戦後日本の社会科学に大きな影響を与えた経済史家・大塚久雄(1907-1996)。その研究は、西欧における資本主義の発生過程とその精神的基盤の解明をめざすとともに、日本社会の近代化の条件を探ろうとするものだった。生産力論、民富論、人間類型論、国民経済論、途上国近代化論のテーマ別に主要論考を精選する。
目次
1 生産力と経済倫理(経済倫理の実践的構造―マックス・ヴェーバーの問題提起に関連して;経済倫理と生産力;資本主義と市民社会―その社会的系譜と精神史的性格)
2 市民社会と民富(経済的繁栄の幻像―投機による擬制的富の結末;経済再建期における経済史の問題;近代化の歴史的起点―いわゆる民富の形成について)
3 近代化と人間類型(自由主義に先立つもの;魔術からの解放;現代日本の社会における人間的状況―一つの感想風な回顧と展望)
4 資本主義と民主主義(巨万の富―歴史における富豪と民衆;民主主義と経済構造;政治的独立と国民経済の形成;)
5 低開発国の近代化と自立化(低開発国研究にとって経済史学がもつ意義;近代化の経済史的条件―低開発国問題に関して西洋経済史は何を物語るか;経済の近代化過程における宗教の役割)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
89
大塚先生の西洋経済史講座や著作集は読んでいたのですがこのような文庫で出してくれるとありがたいですね。いままで講談社学術文庫くらいしかなかったのが岩波文庫でしかも12月にも共同体の基礎理論が出るようです。この文庫ではやはりマックス・ウェーヴァー関連の論文や経済史関連が多く昔の授業を思い出しました。2021/10/29
壱萬参仟縁
35
Amazonギフト券で購入。経済倫理、市民社会に関心があったので。経済倫理は社会的規模において十分に効果のあるものでなければならぬ(30頁)。資本主義の発達は、経済社会の商業化、貨幣経済の発達(68頁)。資本主義の精神は、営利の倫理(81頁、傍点あり)。資本主義の精神は生産力的性格をもつ特有なエートスである(85頁)。禁欲的エートスの実現によって生産力が拡充され、社会的厚生に貢献し、結果として貨幣利得が生じる(86頁)。2021/09/18
ブルーツ・リー
5
まさに、自分が今問題にしている事柄が、思想として書かれていた。やっぱりここなんだろうね。哲学でも、資本主義辺りを探ってみると、自分の考える問題点を掘り下げられそうな気がしている。 「個人主義」「自由主義」「資本主義」これらの全てではないにせよ、問題点はあって、その問題点や矛盾が、現代の日本の、世界のあり様に映し出されているように思われた。 啓蒙思想では、自由を与えられた国民は、向上を目指す。という論理によって動いていた訳だが、果たして現在、自由を与えられた人々は、本当に向上を目指して動いて居るだろうか。2022/04/15
Go Extreme
3
生産力と経済倫理: 経済倫理の実践的構造 経済倫理と生産力 資本主義と市民社会 市民社会と民富: 経済的繁栄の幻像 経済再建期における経済史の問題 近代化の歴史的起点 近代化と人間類型: 自由主義に先立つもの 魔術からの解放 現代日本の社会における人間的状況 資本主義と民主主義: 巨万の富――歴史における富豪と民衆 民主主義と経済構造 政治的独立と国民経済の形成 低開発国の近代化と自立化: 低開発国研究にとって経済史学がもつ意義 近代化の経済史的条件 経済の近代化過程における宗教の役割2021/11/03
トキ
2
大塚久雄は資本主義の形成過程について詳述するが、資本主義とは何かについて詳しく言及することは稀である。しかし、彼の著書『欧州経済史』の叙述で展開されるように『資本論』のカテゴリーを用いており、中産的生産者層の両極分解も価値法則と労働に依拠している。その一方で、本書の所収論考は一貫して、M.ヴェーバーの『プロ倫』、倫理=生産力、エートス=精神的雰囲気を重視しており、『資本主義と市民社会』という表題は読者に誤解を与えるであろう。本書の所収論考は正直言ってつまらない。2022/07/24