出版社内容情報
人口は幾何級数的に増加するのに対し食糧は算術級数的に増加するにすぎないから,人口過剰による社会の貧困・悪徳の増大は不可避である.マルサス(一七六六―一八三四)の名はこの“人口の原理”と一体になって世に知られる.社会科学の歴史において,この書物ほど毀誉褒貶さまざまな論議をまきおこした著述は他にない.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Francis
12
経済学者マルサスの名前を有名にした名著だが、しかしこれほど読まれていない名著もないだろうな。有名な人口原理だけでなく、のちにケインズが「一般理論」で展開することになる賃金の下方硬直性、有効需要の考え方が出されており、社会保障はどうあるべきか、当時の状況を踏まえて考察されている。ただ、主な目的の一つ社会主義者ゴドウィンへの反論の部分は散漫な印象で不要だったのではないか。とは言え、この本は何度でも読み返したい経済学の名著であることは間違いない。2018/12/28
りょーた
0
今日の日本における社会問題の多くが、既に本書にて語られていることに驚いた。生活保護や労働市場、ベーシック・インカム、年金、少子高齢化などについてマルサスの考えが窺われた。解説にもあるとおり、マルサスの予言めいたことのいくつかは、事実と異なるので彼の主張のまるきり全てが正しいとは思われないが、本書の核をなす人口増加と食糧増加の数学的性質については、それぞれのメカニズムに基づいていて正しいと思われるし、本書をもとに、人口に関する様々な議論が沸き起こったのも事実であるから、古典の役割として大変重要だと思われた。2017/12/26
山崎 邦規
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マルサスの主著。人口の増加は食料の増加よりも急速であるという原理に立って、社会状況を観察している。言わば、原理をもって未来を予測したのであり、現代に照らして考えれば、社会状況の解釈にブレが生じている。例えば、高級な洋服を作ることは食料の増加に比べて、全然社会にプラスではないとする点である。現代に至って、知的成果が国富を左右する点が明らかになると分かることだが、食料を第一にする原理はブレていると言える。しかし、頭脳は明晰だったようで、議論の進め方は非常に面白かった。2024/06/06