出版社内容情報
憲法学者・美濃部達吉(一八七三―一九四八)が、「健全なる立憲思想」の普及を目指し、明治憲法について一般向けに解説した書。天皇機関説を打ち出し、天皇主権説論者との論争を呼び起こした。一九一八年の改定版に基づく。
内容説明
憲法学者・美濃部達吉(1873‐1948)が、「健全なる立憲思想」の普及を目指して、明治憲法を一般読者へ向けて体系的に講義した書(初版1912年)。天皇は法人たる国家の最高機関であるとする天皇機関説を打ち出した本書は、天皇主権説論者との論争を呼び起こした。のちに国禁とされた美濃部学説の原点を知る上でも重要な著作である。1918年の改訂版を収録。
目次
国家および政体
帝国の政体
天皇
国務大臣および枢密顧問
帝国議会
行政組織
行政作用
司法
法
制定法の各種
国民の権利義務
帝国殖民地
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
95
大日本帝国憲法がどのようなものであったのかがよくわかります。天皇機関説を説いているということでかなり圧力を受けた、ということですが現在からみると当然のことながらかなり保守的です。それでも昔は憲法についてこのような講義を中学の先生向けに文部省が主催していたことの方が驚きです。10回の講話でわかりやすいのは話言葉で書かれているからなのでしょう。いまの憲法でもやってほしいですね。2018/12/14
南北
47
著者が中学校教員向けに行った講義を元にまとめられているので、読みやすく帝国憲法の内容が理解しやすい。日本国憲法と比べても遙かにまともな憲法だったことがわかる。「東大憲法学」は「法律の範囲内に於いて」を法律ごときが憲法サマに制限を加えるとは何事かと考えているようですが、国民の権利義務をショーウィンドウに飾るだけの日本国憲法との違いを認識すべきだと思います。解説では国家総動員法の例を持ち出してこの件を否定的に扱っていますが、これこそ憲法で大切なのは条文そのものではなく、運用なのだという証左になります。2020/08/22
Tomoichi
18
GW課題図書その3。昔から天皇機関説に興味があったが意味がわからずこの年まできてしまったが、本書で氷解。美濃部の憲法論・立憲主義が戦前の標準的解釈であれば違う歴史もあり得たかもしれないが、憲法論を政争の道具にした政党が自ら政党政治に終止符を打った。本書を読む限り日本国憲法への改正の必要性もなく運用は可能だったと思う。どんな立派な憲法も法律も運用次第である。学校で習った現憲法と帝国憲法の比較について言えば帝国憲法について何も理解していない人による批判だったと改めて理解。2023/05/05
CCC
17
天皇機関説で右翼のターゲットにされた印象しかなかったが、現代的な視点から見れば国家主義的ではないかと感じるところもあった。しかしそれよりも現代の文脈で強い意味を持ちそうなのは、第十講の植民地について。植民地の定義から始め、韓国や台湾がなぜ植民地と言えるのか、どういう状況に立たされているのかを、大日本帝国の法律家の立場から説明している。客観性の高い支配者側の視点として資料的価値を感じた。日本と大日本帝国の違いが顕著に表れている部分でもある。2018/12/12
ヤギ郎
14
美濃部達吉が記した明治憲法の教科書。文部省の開催した中等学校の教員に向けた講座を一冊にまとめている。明治憲法を土台にしているので、細部は異なるが、現行日本国憲法の理論に通じるところが多いことに驚く。裁判所構成法(現行でいう裁判所法。)といった明治憲法下に運用された法律がそのまま掲載されていて、眺めるだけでも面白い。本書の根底には立憲主義の実現がある。「天皇」の章から始まる明治憲法に理論的な説明を与えて、国家像を描き出した。「帝国殖民地」の章(いわゆる外地法論)があって興味深い。解説は高見勝利。2020/10/09