出版社内容情報
政治に対する倫理の優位を信じ望ましい政治秩序を構想する、変革の思想としてのユートピアニズム。現実を分析し、そのユートピアニズムの偽善を暴くリアリズム。戦間期二十年の国際政治に展開した理想主義と現実主義の相克と確執に分析のメスを入れ、時代と学問の力動的関係を活写する、二十世紀国際政治学の記念碑。新訳
内容説明
変革の思想としてのユートピアニズム。ユートピアニズムの偽善を暴くリアリズム。戦間期二十年の国際政治に展開した理想主義と現実主義の相克と確執に分析のメスを入れ、時代と学問の力動的関係を活写し、真の政治的姿態をあらわにしてみせる、二十世紀国際政治学の記念碑。戦争と平和と国際問題を考えるための必読書。
目次
第1部 国際政治学(学問の出発;ユートピアとリアリティ)
第2部 国際的危機(ユートピア的背景;利益の調和;リアリストからの批判)
第3部 政治、権力、そして道義(政治の本質;国際政治における権力;国際政治における道義)
第4部 法と変革(法の基盤;条約の拘束性;国際紛争の司法的解決;平和的変革)
結論(新しい国際秩序への展望)
1 ~ 3件/全3件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
44
第2次世界大戦勃発時に、その直前の戦間期20年間を題材に、国際政治を論じたもの。その手法は歴史学者らしく、理念ではなく理想主義・現実主義の様々な論考に批判を加えていきながら、その両者の統合の必要を論じる。1919年からの十年を、(おそらく大戦の反動から)現実を考慮しないユートピア(理想主義)の時代と断じ、1929年からの10年を、前の十年に対する絶望から理想を排した現実主義の時代と捉える。この理想主義と現実主義の分離こそが危機ということ。したがってその処方箋は、この両者を如何に統合するかということになる。2019/10/12
うえぽん
37
20世紀国際政治学の記念碑的著作。1920年代の現実を無視した理想主義から30年代の理想を完全に排除したリアリティへの急降下と民主主義の無力化を「ユートピア的リアリスト」のカーが鋭く抉り出す。政治と法の二元論、国内政治と国際政治における司法の在り方の対比の辺りに、外交官として、危険なほどリアリティを欠く国際連盟の仕事に携わった経験が活きている。19世紀の利益調和説が強国の論理だとして強く非難するあまり、ソ連やドイツ、日本に関する記述が若干宥和的(第二版で一部削除)な点はあるが、国家を語る上で必読と感じた。2024/02/11
Bashlier
23
5/5 社会を永久に触れ続ける振り子として描いた傑作。”ユートピア”(理想追求)と”リアリズム”(現実主義)のいずれかに走っては壁にぶち当たり、真逆へ跳ね返ってきた軌跡こそが歴史、という主張です。特筆すべき美点はいずれの思想に対しても寛容であること。前者は実行力に劣り弱弱しいものの明るい希望を描き、後者は現状維持に腐心し不毛さを孕むも秩序を回復する力があると。どちらも必要なんですね。読み進めていくと、自分自身がどちらに偏っているのかも見えてきます。自己を捉えなおす局面にある方に是非おススメしたい作品です。2023/05/07
Francis
21
前の訳(井上茂訳)を読んでいたが内容は忘れていた。戦前のウッドロー・ウィルソン米大統領の推進したヴェルサイユ体制、あるいは国際連盟に代表されるユートピアニズムをリアリズム的な立場から批判している。この本が一筋縄でいかないのは著者がリアリズム的な立場からユートピアニズムの理念をどのように実現すべきか真剣に考察している事。ゆえに名著扱いされているのだろう。日本ではカー教授のような立場はあまり受け入れられていないようだが、米国の凋落により国際連合の機能不全が目立つ現在この本を読む意義はますます増していると思う。2022/01/10
ヒロキです
20
政治は道義を尊重するユートピアニズムと権力を尊重するリアリズムから成り立つとして、前者が変革の思想として存在し後者がユートピアニズムの偽善を暴くものとして存在してると述べる。 2つの思想はどちらも必要なものであるが、どちらも合体することはリアリズムの性質から外れ永遠に不可能だとしてる。 また両者の性質は政治があって成り立つ法にも適用出来ると述べていて、法は現状を維持するものとして機能していると言う意見はモーゲンソーにも見えた。 現在(当時)の体制はアメリカが利益になるよう形成されているとも言う。大変面白い2020/04/11