出版社内容情報
一七五○年,無名のルソー(一七一二―七八)を一躍有名にしたデビュー作.学問芸術の発達と徳の衰退の関係,学問芸術の起原と結果を論じたこの論文には,学問より徳の重視,奢侈と不平等への嫌悪,原始状態の賛美等ルソーの諸思想の特色が萌芽的な形であらわれており,ルソー全著作の出発点を示す重要な論文といえよう.書簡六通を併収.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かわうそ
41
ルソーのデビュー作。この学問芸術論においてすでにルソーの思想の萌芽が見て取れます。普通に考えれば、学問や芸術は人間の徳に貢献してきたと考えられますが、彼はそれに異議を唱えます。学問や芸術が画一化、不自然さ、飾りを強要し、上品さや雅さの下に人間の小汚い部分を隠し持つようにさせました。また、以前は自然さ、わかりやすさが悪徳の防波堤の役割を果たしていたのですがその防波堤を決壊させたのが学問や芸術で、同時代にウケるようなネタばかりを求める文学や学問を生み出すことに繋がって結果的に徳を退廃させてしまったのです。2022/11/27
ラウリスタ~
11
岩波から重版されてようやく手に入りやすくなった。今のうちに購入。この文庫版にしても論文の本文自体は40ページほどに過ぎず、むしろこの論文に対する反論に対する反駁が過半を占める。短い論文そのものも十分に面白いものではあるけれども、たしかに詰めが甘く突っ込まれる要素が大量にあるようだ。むしろ、多種多様な反論を受け、反駁していくなかで主張が細かいところまで肉がついてくるようである。どっちの立場でも同様に勝手な主張を展開できるディベート的雄弁家を強く批判しつつも、自分もまごうことなきそれじゃないかってオチが最高。2013/11/17
ラウリスタ~
9
文学研究に身を捧げようとする人間からすれば、この本を避けて通ることはできない。学問、芸術が習俗を堕落させた、もっとも一度堕落した習俗は原因を取り除いたからといって良化することはない。っていうのが主張の中心。その能力、資格がない人間が学問、芸術に冒されると、まさに何の役にも立たないだめ人間が誕生する。社会にとっても同様。かなりきつい言葉ですが、学問を一方的、単純に称揚するのは、それに携わる自分自身を自画自賛するだけに他ならない。勘違いをおこしやすい学問、芸術に対する批判。2012/05/26
泉のエクセリオン
8
ルソーの処女作。学問と芸術の普及が人間の悪徳、不平等を助長したという内容でなかなか過激。ルソーの特徴の一つだが、この論文でも学問、芸術のすべてを否定しているわけではない。ただこれらから、富、奢侈、そこから不平等が生じていることに関してルソーは批判をしているのだと思う。そのことは後の『人間不平等起源』』で論じられるが、不平等への嫌悪は『ポーランド王への手紙』で少し顔を出している。「悪の第一の源は不平等である。不平等から富が生じた・・」の下りはルソーの思想の萌芽を確認できると思う。2022/03/19
D.Okada
6
理性が発達する反面、人間は道徳的に頽廃してしまったがゆえに、論題「学問・芸術の進歩が人間の習俗の向上に寄与したか」に対して「否」と突きつける。論文の結びの「おお、徳よ!素朴な魂の崇高な学問よ!お前を知るには多くの苦労と道具が必要なのだろうか。お前の原則は、すべての人の心の中に刻み込まれていはしないか」には、徳とか良心とかもともと人間に備わっているはずなのに....というルソーの叫びを感じられる。2011/12/23