出版社内容情報
かつて人間は不平等の殆ど存在せぬ自然状態にあったが,歴史的な進歩という頽落の過程をへてついには「徳なき名誉,知恵なき理性,幸福なき快楽」だけをもつ存在に堕する.それが専制社会における人間の悲惨なのだとルソー(一七一二―七八)は論じ,同時代の社会と文化を痛烈に批判した.今も根元的な思索をうながしてやまぬ書.
内容説明
かつて人間は不平等のほとんど存在せぬ自然状態にあったが、歴史的な進歩という頽落の過程をへてついには「徳なき名誉、知恵なき理性、幸福なき快楽」だけをもつ存在に堕する。それが専制社会における人間の悲惨なのだ、とルソー(1712‐78)は論じ、同時代の社会と文化を痛烈に批判した。いまも現代人に根元的な思索をうながしてやまぬ書。
目次
本論
付録(ヴォルテールからルソーへの手紙;ルソーからヴォルテールへの返事;フィロポリスの手紙;ルソーのフィロポリスへの返事)
1 ~ 1件/全1件
- 評価
本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びす男
48
「われわれが文明化されたのは、いずれにしても良かったのですが、そうならないほうが、われわれにとって確かにいっそう良かったでしょう」。人間と人間のあいだになぜ不平等が生じるようになったのかを、自然状態にまでさかのぼって考えた著作。共同生活をするなかで生まれた「尊敬」という概念、モノを「私有」するという発想、「鉄と小麦」に代表される産業の発達…。不平等は、人間の発展と不可分なものとして生まれ、固定化されたのだった。付録にあるヴォルテールの「人類に文句をつけた著作」という皮肉が気に入った。あとで書評かきます。2014/12/16
藤月はな(灯れ松明の火)
35
ルソーはこの著作で人間の本質は感性によるものだが自分の保存を目的とする自己愛(しかし、社会で生じる他者と相対化することによる名誉を求める心とは異なり、人間愛や美徳を産むもの)と他者の気持ちを想像し、行動を止めたりする憐みを有すると定義する。これはカントの理性を人間の根幹とする論とは対する。しかし、社会による階級制度によって不平等が生まれ、人間は自尊心や自己利益しか考えられなくなっていく。それが社会を発展させた。しかし、現在で自然へ戻ることは叶わず、平等な自然状態にも能力などの不平等は有り得るのだと思う。2013/07/15
おせきはん
28
文明の発展とともに支配する側とされる側、貧富の差などの不平等も進歩した歴史を紐解きつつ、専制政治、そして自然状態ではなく社会状態に生きる人の課題を論じています。新年にあたり、社会状態に苦労を感じながらも安住している自分の心の声に今一度、耳を傾けます。2024/01/03
那由田 忠
19
『社会契約論』に向かうため社会論として読むのが正しい。政治社会が形成される前の「自然状態」における、孤独な存在としての未開人のあり方を、知られ始めた非文明人の状態を参考にして解きあかす。自然状態は平等で平和であったが、社会が生まれる中で人は他人との関係で欲望を持つようになり、様々な生活技術や文化を発展させたとしても、大きな不平等の中で暮らすようになった。よく読むと「自然に帰れ」と言っていないのだが、日本ではそのように見なしてきた。その不平等という不正義を克服する道が人民主権の社会契約なのである。2016/09/30
サイバーパンツ
18
ルソー頭おかしい(小並感)。そもそも「自然状態」は、トマス・モアの『ユートピア』のようなもので、ロマン主義的な虚構のイメージであるが、本書はそれを「ある」と仮定して話を進めるので、当然ぶっ飛んだ思想書となっている。それゆえ、なかなか難解で、一見すると自然状態に還れと言っているように感じられてしまうが、流石にそこまで単純ではない。とりあえずの主題は、自然状態から社会状態への移行の経緯から、権力者に都合良く法をねじ曲げる国家の腐敗を、社会に何の懐疑も持たず他人の意見・感情に寄り掛かる人々を批判することにある。2017/02/18