出版社内容情報
一九世紀末に発明された映画カメラは瞬く間に無声映画を創り出した．本書はその無声映画が絶頂への登路にさしかかった時に，クローズアップ，モンタージュを中心にして理論的・体系的に整備した古典的名著．映画という新しい芸術の果すであろう社会的・文化史的役割を語る映画人バラージュの情熱は，創成期の人間固有のものである．
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しゅん
19
1924年というめちゃんこ早い時期に刊行された映画論の古典。小説による言葉での描写が人間存在を規定していく時代において、映画は目に見える人間、「視覚的人間」を生み出す。日常的には確かめられない人間の様相の観察を、クローズアップという技術が可能にした。映画は新しい娯楽であるだけでなく、人間が人間を理解するための新しい芸術的装置なのだ。映画における演技論などには今読むと素朴に感じる部分もあるが、映画の構造と社会的意味のエッセンスを早々に示した名著だろう。今の映画文化があるのはこの本のおかげかもしれない。2017/11/28
ラウリスタ～
7
白黒の無声映画の時代に書かれた映画擁護論。映画は演劇や小説の劣化版ではなく新たな芸術ジャンルだと主張。優れた文学作品の映画化が必ず失敗する理由についての考察が面白い。また映画では、台詞は音としてではなく、表情として理解される（無声なので）。そのため、音の響きに特化した演劇の発声と映画の発声はまったく異なる。そのほか、ＢＧＭの効用など（無声映画ではＢＧＭでも流し続けないと、無言で観衆がじっとしていることになりなんだか奇妙すぎる。）面白い。古い映画論ゆえに、映画の本質を考えさせられる。2013/06/14
gu
3
トーキー映画以前を念頭に置く必要はあるがとても面白かった。表面しか存在しない映画の通俗性と芸術性について語り、そこでは特に「顔」がキーワードになる。顔（表情）は人に限らず動物や小道具や風景や所作にも表れる。2025/02/22
2兵
2
20世紀初頭、映画の黎明期に書かれた、映画理論についての本。そもそもその理論自体、未だ確立されていない時代の話であり、現在では最早当たり前となったモンタージュ(らしき理論)やクローズアップについて、それが映画そのものにいかなる意味をもたらすのか、そもそも映画自体、何を映し、何を描いているのか、綿密に論じられている。フィルムの長さが1時間半でも長かった時代、後の時代は映画が語るものに合わせて、フィルムもますます長くなるだろうといったことが書いてあり、これは『ドライブ・マイ・カー』や『ザ・バットマン』など2022/04/09
肉欲棒太郎
2
序言の「理論は、芸術の旅人のための地図である」との言に感銘受ける。「映画は〈表面芸術〉であり、そこでは〈内なるものが外にある〉。」言葉(概念)の文化から、視覚の文化への転換。映画論に留まらず、身体論、観相論、美学論などに至るまで、本書に関わるテーマは幅広い。名著。2016/08/11
