出版社内容情報
紀元前431年に勃発したペロポネソス戦争は,27年の長きに亙ってギリシア全土を混乱の堝と化した.自らその渦中にあったトゥキュディデス(前460‐前400頃)は,動乱の全過程を克明に記録し,歴史を動かす大きな力の本体を混乱の背後に見きわめようとして本書の筆を執った.鋭い緊張のみなぎる雄渾な筆致で記述された大戦役の歴史である.
内容説明
ペロポネーソス戦争の経過を克明に追うことによって、トゥーキュディデースは、この古代ギリシア世界をゆさぶる激動の意味をつきとめようとした。
目次
巻3(ペロポネーソス同盟軍、第三次アッティカ侵攻;レスボス諸市の離叛、その一;アソーピオス、北西部ギリシアで作戦 ほか)
巻4(アテーナイ、シケリアに干渉;ペロポネーソス同盟、第五次アッティカ侵攻;ピュロス、スパクテーリアの攻防戦 ほか)
巻5(アテーナイ人、デーロスの清めをおこなう;クレオーン、トラーキアに遠征;ラケダイモーン人、ヘーラクレイアの内情を改善 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Francis
11
ペロポネソス戦争も10年以上続き、一旦休戦へ。それにしても古代ギリシアでよくぞここまで起こったことを詳しく書いたものだと感心する。資料集めとかどうしていたんだろうか。中国の歴史書は国家事業として行われていたけど、トゥーキュディデースの場合はどうしていたのだろうか。古代ギリシアの歴史を追うのは日本人には難しいのでむしろこの辺の事情を想像しながら読むのが良いのかもしれない。2018/12/06
てっき
4
上巻に続き読んだ本。 本書では特にシケリア干渉が主に描かれるが、なにより本書ではスパルタ側名将のブラシダスの卓越した手腕がこれでもかと強調されている。(筆者はアテネ人のはずだが、敵軍の将を讃えてしまうのは古今東西枚挙に遑がないのとしておく)話半分としても、政治的慧眼・手腕に加え、戦術面でも指揮統率の全てに優れていることは間違いなく、現代においても参考となるのではないかと思うほどだった。2023/06/18
Orange
2
ペロポネーソス戦争中にアテーナイを襲った疫病は、その人口の3分の1を奪う。それでもなお戦争を続行するアテーナイの活力と財力はこの時代にあってやはり破格なんだろう。でもこの戦争以降、ギリシア文明は衰退していく。アテーナイ人であった著者は作中で淡々と書き記している。「善行をなして馬鹿と呼ばれるよりも、悪行をなして悧口とよばれやすい世情となり…」(P102)ポリス内外の抗争で荒廃する社会。古今東西、文明が衰亡するとき、同じようなことが起こる。たまに思う。自分の住むこの国だって、滅びている最中なのではあるまいか。2016/04/30
ハルバル
2
覇権を争うペロポネソス同盟とアテナイの戦いの影で弱小国メロスの帯びる運命には、いつの世にも変わらない戦争の悲劇と不条理がある。 トゥキュディデスは祖国アテナイの歩んだ道を、追放後も見続けながらどう思っていたのだろうか? ブラシダスとクレオンの死が契機となってニキアスの平和が結ばれるが、戦争自体は終わる気配がないのだから、一時の講和も空疎なものに思えた。 こう言ってはなんだが、小競り合いと内乱ばかりが目立って終わる気配がまるでしない…。2014/09/26
鵜殿篤
1
詳細な籠城戦描写にも、感じ入った。土木工事の重要性が、心底よく分かる。特にアテナイによるシュラクーサイ侵攻では、土木工事のスピードが勝負の分かれ目となった。日本の戦国時代でも土木工事は極めて重要だったはずなのだが、地味なためなのだろう、あまりクローズアップされることはない。しかし織田信長や豊臣秀吉、あるいは武田信玄や真田父子の強さが土木工事に拠ることは明らかだろう。そういう戦争というもの(特に籠城戦)における土木工事の意義をこれほど高い説得力で描いている本は、古今東西を通じてほとんどないのではないか。2019/09/07