出版社内容情報
ある日,イワーン・イワーノヰッチは隣のイワーン・ニキーフォロヰッチの持つ鉄砲を見て欲しくなる.丸々太った鳶色の豚との交換を申し入れるが,交渉するうち喧嘩になって…….安逸をむさぼる田舎の小地主の社会の,死んだような沈滞と知的な貧しさを,あふれる笑いの中に描き出した傑作.
内容説明
ある日イワーン・イワーノウィッチは隣家の鉄砲に目をつけた。丸々太った鳶色の豚との交換を申し入れるが…。田舎の小地主の社会を描いた傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
59
舞台は小ロシア。美しい自然に囲まれた平和な、人の良い地主たちの暮らす町ミルゴーロット。その町の「名誉であり尊敬すべき」紳士、しかも「最も仲の睦まじい」2人の間に起きた喧嘩の顛末が語られます。ささいな喧嘩が、売り言葉に買い言葉、他人の介入などによって気付けば訴訟問題に。この悲しくも馬鹿馬鹿しい争いと、それを取り巻く物見高い人々を描き出す語り口はテンション高く皮肉でかなり滑稽ですが、物語を締める言葉と相まって最後には人生の悲哀を感じてしまいました。「諸君、此の世は退屈だ!」そして何とほろ苦くやるせないことか!2019/11/11
蛇の婿
12
ゴーゴリの『ミルゴーロット』の4つの短篇のうち一つ。面白いことに、この本を読み始めて半ばぐらいまで読み進めたときに、読了済の『昔気質の地主たち 附ヴィー』の感想を全く偶然にいいねしていただきまして…これもまた読むべき時に読んだ本なのだなぁと思いました。旧仮名遣い、旧字体がやはり読みづらい本ですが、なかなか面白く読了。2020/09/06
SAT(M)
11
昭和初期に出版された版でそのまま刊行されているようで、旧字体・歴史的仮名遣い・古い版特有の印刷のかすれ、から来る重厚さがページを開いた瞬間から感じられるのですが、それと対照的にハイテンションな語り部がエクスクラメーションを連発する様が、不釣りあいで可笑しい(笑)。仲の良かった二人が、クダらない事をきっかけとして、コメディのようなドタバタの喧嘩を始めるという、名は体を表す展開。歴史上「引っ込みがつかなくなったから」という理由で戦い続けるのはよくある話ですが、そんな人間に対する優しい皮肉が盛り込まれています。2019/08/03
たぬ
6
☆4 「外套」「鼻」以外の作品も読んでみたくて。旧字・旧仮名遣いは内田百閒である程度慣れているけど加えて活版印刷ですよ。さすが岩波。隣人同士が果ては訴訟合戦まで繰り広げる話なんだけど、「お前の鉄砲よこせ」「やだよ」→腹いせに相手の鵞鳥小屋を崩壊させるんだもの。しかも話の腰を折る手段が「鶉捕りの話」って何? 豚が法廷に闖入して請願書を銜え逃げるってのも意味が分からない。「お尻」とかいて「おけつ」と読ませるのは笑えるけど「別な方向に突き飛ばすのが通常の仲直り方法」ってのも意味が分からない。2020/03/28
Nemorální lid
6
著者ゴーゴリは社会的要素をロシアの文芸に取り入れた最初の人で、そのリアリズムは『笑ひと戦慄と涙と』(解説 p.110)の三要素によって成されている。当著はそのようなゴーゴリのリアリズム三要素を具現化したもので、小地主同士の争いを醜美関わらず描き出す。…イワンとイワンは喧嘩する。それは今までの喧嘩がどれだけ笑いや戦きや悲泣を生み出してきたのだろうか、と言う問いかけを示している。そう考えると、ゴーゴリが示した地主社会の現実関係は現代と大差ないのかもしれない。イワンとイワンは喧嘩する。諸君、此の世は退屈だ!2018/05/13