内容説明
「名前のないモノ」ばかり作る大工、「世界でいちばんすばらしい詩」を書いている詩人―。ストリートで生きる面々の十七の物語は、みな風変わりで、少し切ない。ポストコロニアル文学の源流に位置するノーベル賞作家ナイポール、実質上のデビュー作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
120
1940年代トリニダード・トバゴの一角、粗野で口は悪くとも堅固な仲間意識が根付いた住民たちを描いた17の連作短編。閉塞感への苛立ちが飲酒や暴力になり、何かを成し遂げようと足掻けば大方失敗する、生優しい場所ではない。しかし、どんなちっぽけな住民にも人間味を追求した眼差しは温かく、悲劇に対してコミカルな前振りも多い。何も作らない大工、何でも感動する詩人、自宅を花火にする職人、出産毎に男が変わる女、何も信じない散髪屋…「どんなもんだい!」—豊かな個性が植民地として抑圧されてもそこに一つの世界があると叫んでいる。2022/08/31
KAZOO
114
トリニダード・トバゴのある街ポートオブスペインの小路を生活の舞台とする人びとのちょっとした事件などをうまく17の短編連作にしています。それと同時にこの語り手の成長小説とも言えるのかもしれません。この作者は初めてですがノーベル文学賞を受賞しているということです。その最初の作品ですが、非常に読みやすく、切なさもあったりしますが貧しい生活ながらも楽しんでいる様子が新鮮です。2019/06/26
nobi
74
カリブ海の島国トリニダード・トバゴの言わばスラム街の少年達とぼく。彼らを取り巻く輩は、誰一人マトモとは言えない。父親は子供を殴る、夫は妻を殴る、夫婦関係は破綻するもの。裁断姿を見たことのない仕立屋、自暴自棄になった花火職人、7人の父親から8人の子を産んだ女、凶暴な男に恋した医者の妻、強面なのに怖がり、新車をいじり壊す、富くじ競馬の当たりを信じない、アメリカの兵隊に女房を寝取られる、…。近づき難いか可愛がってくれる。そんな彼らもいつか去るあるいは憔悴していく。すると分かる。彼らは少年の世界を彩っていたって。2022/09/22
ちえ
39
カリブ海にある島国トリニダード・トバゴのミゲルストリートに住む人たち。トリニダード・トバゴが何処にあるのか、どのような歴史を持っているか全く知らなかったけれど(訳者の後書きで初めて知った)、スケッチのように描かれる個性的な人達に引き付けられる。作者ナイポールは生まれ育ったその国に批判的でもあったようだが、その町、人達、空気が根底にあり育てたのは間違いないだろう。行ったこともない遠い町なのに読んでいると子供の頃を思い出す。とても良かった。2020/09/03
おか
35
筆者の「暗い河」が余りにも暗すぎて 次に何を読むか決めかねていたが 読友さんのレビューでこれを読みました。 あとがきによると この作品がナイポールの最初のさくひんです。小説の舞台はカリブ海イギリス領のトリニダード・トバゴの街ポート・オブ・スペイン。ミゲル・ストリートという街の一角の道に立ち並ぶ個々の家庭を主人公の少年の眼を通して 鮮やかに語られる。彼らの逞しさ、惨めさ、挫折や悲しみから大切なことを学び成長する彼は 結局最終的には。。。人々の生き生きした姿 一人一人が心に残った2024/07/21