出版社内容情報
「…月四千ペソ」.新聞広告にひかれてドンセーレス街を訪ねた青年フェリーペが,永遠に現在を生きるコンスエロ夫人のなかに迷い込む,幽冥界神話「アウラ」.ヨーロッパ文明との遍歴からメキシコへの逃れようのない回帰を兄妹の愛に重ねて描く「純な魂」.メキシコの代表的作家フエンテスが,不気味で幻想的な世界を作りあげる.
内容説明
「…月四千ペソ」。新聞広告にひかれてドンセーレス街を訪ねた青年フェリーペが、永遠に現在を生きるコンスエロ夫人のなかに迷い込む、幽冥界神話「アウラ」。ヨーロッパ文明との遍歴からメキシコへの逃れようのない回帰を兄妹の愛に重ねて描く「純な魂」。メキシコの代表的作家フエンテス(1928‐2012)が、不気味で幻想的な世界を作りあげる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
34
「チャック・モール」は現実から幽界が侵食してきて、「女王人形」では幽界よりも恐ろしくも悲しい現実を浮き彫りにしており、その対比が印象的でした。老いの残酷さと妄想とも言える観念世界の泥沼のような心地よさの「最後の恋」と「アウラ」、隣り合わせでも容易に訪れない死を意識させる「生命線」、神聖化した自己の半身と世俗に塗れることでその神性が薄れることへの残酷なまでの失望を描いた「純な魂」。題名が皮肉めいていて文章も簡易なのに過去形の多様で違和感を感じられるのでより眩惑的で不気味さを募らせます。2012/10/05
スミス市松
31
多彩ながらも静的で不気味な描写を用い、緊迫した物語世界を構築しつつも、それぞれの物語の要所で仰天するような欧米産ゴシック・ホラー的装置が使われていて意外とひんやりする作品が多かった。「アウラ」においてひとつ述べるならば、本作品は二人称小説となっているがこの「君」と呼びかける語り手は何者なのかを考えると面白い。しばしば「~だろう」という推量形を使うということは、この語り手は登場人物たちの出来事を確認できない小説内世界の外側にいる存在であり、そう考えれば自ずと何者なのか分かってくる。(続)2015/07/20
ハチアカデミー
23
C+ メキシコの奇妙な物語。人形が喋りだし、生と死が交錯する。素材にメキシコの風土や小物を使いつつ、都市生活者の日常と非日常の狭間が描かれていく。雨月物語から着想を得たという異界譚「アウラ」、純粋さの怖さを描くリアリズム作品「純な魂」の二編が良い。短いながらも「最後の恋い」も印象深い。二人称に近い文体を使用してみたり、オチをしっかりつけるあたりが、ラテアメ作家とはいえヨーロッパ、特にフランスの色が強い。そこらへんが好みの分かれ目か。恐怖の対象や描き方に、日本文学の親和性を感じる一冊であった。2013/01/15
やまぶどう
22
素晴らしかった。すっかりよれよれだ(ほめてます)。「アウラ」老いと若さ、醜と美、生と死。対照であり表裏一体の二人の間を迷い惑う「君」の見る世界が細部まで微妙に怖い。土台となった「雨月物語」を再読したい。「純な魂」独白される兄への愛。次第に狂気を帯びたその愛の結果は。フエンテスの辿った経歴からこの物語の背景を解く木村氏の解説もとても面白い。「最後の恋」「女王人形」も良かった。ああ、全部いい!「チャック・モール」は既読。この夏はラテンアメリカなのだ。2009/07/27
ドン•マルロー
21
どの作品にも終始、不気味な雰囲気がたちこめ、結末には総毛立ってしまうこともしばしばだったが、本作がただのゴシック小説でないことは明らかだ。登場人物たちが往々にして死を迎えたり、死のイメージを感じさせたりするのは、恐らく著者自身の心の葛藤が反映された結果なのだろう。人間は二つの観念――例えば、愛国心と外国への憧憬の念、土着的信仰と近代文明、夢と現実等――を同時的に信奉することは困難で、最後には、どちらか一方を切り捨て(死なせ)なければならない。究極の二者択一を迫られた一作家の痛切な思いを感じさせる作品だ。2016/01/11
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- 続・集まり散じて