内容説明
ボルヘスのエッセイの極北。古今東西の作家や文学作品を思いも及ばぬ驚異的な連想力で結びつけ、作家をつうじて現れた文学表現の総体性もしくは伝統を論じる文学論の奇観。短篇小説と同じよろこびを感じながら読むことができる。底知れぬ奥行きをもつ評論集。
目次
城壁と書物
パスカルの球体
コウルリッジの花
コウルリッジの夢
時間とJ・W・ダン
天地創造とP・H・ゴス
アメリコ・カストロ博士の警告
カリエゴ覚書
アルゼンチン国民の不幸な個人主義
ケベード〔ほか〕
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
70
エッセイ集。作者は何と魅惑的に世界の眩暈のするような底知れなさについて語ることでしょう。クセノファネスが観照した球体(神)のイメージがコペルニクスとブルーノを経て「自然は無限の球体」であると書いたパスカルに繋がることや、普遍概念で世界を捉えていた人間が、個人・個物として世界を捉えたときにアレゴリー文学から小説へ移行したことなどを示しながら彼は尋ねる。世界は、歴史は一冊の本なのか、謎のごとき夢なのか、少数の隠喩の様々な抑揚なのか。古今東西の思想や思索が調和をもって響き合うボルヘスの宇宙を堪能する一冊でした。2021/01/25
彩菜
40
何と美しいボルヘスの宇宙。古今東西の様々な時代のテクストから、彼は同一のテーマとその変奏を提示して行く。クセノファネスから天動説、パスカルへと「無限球体」を。惚必烈汗とコウルリッジの間に「夢に見られた宮殿」を。人の想像力に可能な比喩や寓話は限られており、そこに意味を見出だすのは間違っている。だがそれでも世界は一つのイメージの無限の連鎖であり、多様な変奏の源には一つの原型があるのではなかろうか。一冊の本が、時を経て万人の個人的な記憶へと無限に拡がり、その無限の記憶が結局はただ一冊の本に帰する、そのような。2023/09/04
zirou1984
31
ボルヘスが30代後半から50代前半にかけて執筆されたエッセイ集。ここでは小説や詩作で用いられる意匠=衣装は剥ぎ取られ、工匠者としてのルーツを考証可能とする裸の知性そのものに触れることが出来る。言及し研究された書物は西洋史を縦断しつつもスペイン語圏の作家まで無数に上り、そのテーマも文学論から神学論、哲学的命題と横断的である。バベルの図書館の元ネタとなる作品が存在していたのは驚きであった。しかしボルヘス的なものは言及すればするほど遠ざかる、まるで彼の作品の主題となる無限後退性そのものの様な気がしてしまうのだ。2013/07/10
内島菫
30
本書の主眼となっている「無限後退」やパリンプセスト、「すべての行為は、無限に連続する原因の帰結であり、無限に連続する結果の原因である」という事態は、「同じことと違うこと」や「一と多」という問題にある世界の秘密の罅割れだ。その罅割れを指し示し、ボルヘスは観念論が物や自我を否定した手つきを応用することで時間を否定する、「同一の項目がくりかえされるということは、時間の順列を崩壊混乱させるに足るものではないのか?生涯シェイクスピアの一行にとり憑かれたシェイクスピア気狂いは、シェイクスピアその人ではないのか?」2018/01/30
マウリツィウス
26
【続・審問】ホルヘ・ルイス・ボルヘス-つまり『創造書』に住まう《幻獣》が「ボルヘス」定義、古典諸語の構成した《初期へブル語遺産》が彼であるとするならば七十人訳以降定式化された「ブエノスアイレス図書館」とは「アレクサンドリア図書館」と主題合致する。そして、イエス・キリストを根本命題とした『新約聖書』を切り捨てた彼は《デミウルゴス》=グノーシス属性をも継承、それをヘルメス的に古代教会史から復活させた異端セクト派生でもあるが、古典期を蹂躙するローマ帝国を滅ぼすべく引用された《神学論》が「ボルヘス」と称される獣。2013/07/18