出版社内容情報
焦土と化した戦後ポーランドの混沌とした状況を4日間の出来事に凝縮した長篇小説(1946).政権側要人の暗殺命令を一人で引きうけて射殺される一青年の悲劇を中心に,社会各層の混乱と矛盾が鮮やかに描きだされる.作者(1909-83)が脚本に参加したワイダの同名の映画の原作.題名はポーランドの詩人ノルヴィッドの詩の一節による.
内容説明
焦土と化した戦後ポーランドの混沌とした状況を四日間の出来事に凝縮して描く長篇小説。ヨーロッパ戦線が実質上終結していた1945年5月5日、ワルシャワ南部の地方都市で党幹部と誤認された労働者が反革命テロ団により射殺される事件がおこった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
64
再読。終戦直前、ドイツが軍事行動を停止してからのポーランドの4日間。貴族たちは自分たちを頂点とした西側に軸足を置いた政府の成立を夢見、若者たちは秘密結社を作り、収容所帰りの人々を中心とした共産主義者たちはソ連寄りの政府擁立を画策している。戦争を体験していない貴族たちはどこまでも上滑りな感じでしかなく、若者たちは限りなく危なっかしい。暴かれた収容所帰りのコーセツキの保身のための卑劣な行為は、同じような話を何度読んでいても、やはりとても痛ましい。2016/10/12
藤月はな(灯れ松明の火)
35
偶然、途中からこの映画を見る機会がありました。観終わってから「この物悲しくもひたむきな映画の原作はどのようなものなんだろうか?」と興味を持ち、読みました。ドイツ、ロシアに挟まれた地理故に戦況によって支配され続けてきたポーランド。収容所や不安定な情勢で生き残るためには密告など、卑劣な手段を使い、他人を犠牲にするしかなかったという現実。理想を叶えるためにその理想を疑問視する者は切り捨てる危険な一途さ。本質は違うが、結果としては似通っている事実を肯定することもできないが、同時に否定することもできないのだ。2015/03/05
ラウリスタ~
19
アウシュヴィッツの記憶が帰還者の口から未だ発せられない不気味な終戦前夜のポーランド。戦後ポーランドの行く末をめぐって若者たちが秘密結社を組み、大人たちが密談し、帰還者たちは口を閉ざす。帰還者の一人シチューカをめぐる複数の無関係な暗殺計画と、彼らの親を親戚として、また仇として訪問するシチューカ。無関係だったはずの人間関係の輪が、次々とつながり、世代間闘争を予想させる不穏な空気を醸し出す。序盤の固有名詞の五里霧中を抜け出すと急激に緊迫感が増し始める。後半に期待。2016/03/30
ザビ
16
「ポーランド人は二つのカテゴリーに分かれた。ポーランドの自由を売り渡した連中と、それは嫌だという連中と。奴らは共産主義を望み、我々はそれを望まない。死には死を、だ。それが闘争の常道だ」「我々の全ての決定の背後には(共産)党がある。党の路線は正しい。ここが最も重要。~闘争はやっと始まろうとしているんです」第二次大戦末期のポーランド、ロシアに属そうとする共産主義勢力と反体制派の対立を軸に物語は進む。「すべてが空虚で真っ暗」の通り、悲しみすら通りこし疲労と虚無感がへばりついたような市民生活の切り取りの数々。→2022/12/21
きょん
13
戦前・戦後のポーランドの混沌。何が正しくて何が誤りか、それは結果論でしかなく、また苛烈な収容所体験が人を猜疑的に或いは無気力にする。2014/10/14