出版社内容情報
ナチス・ドイツの占領下のプラハで,共産党第二次地下中央委員会の一員として捕えられた著者が,拘置されていた獄中で秘かに書き残した作品.魂をうつ極限状況の人間記録として,またナチスに対する抵抗運動の記録として八○もの言語に訳されて今日まで読みつがれている.巻末に著者の獄中書簡,詳細な訳注と年譜を付す.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
風に吹かれて
20
1942年4月24日にナチに逮捕され、拷問と尋問を受け、1943年9月8日に処刑された共産主義ジャーナリストのユリウス・フチークが監房で書いたレポートが本書。 ナチ占領中のチェコで共産主義者が相次いで逮捕された。フチークはもちろんのこと仲間たちは沈黙を貫いた。フチークに紙と鉛筆を渡しフチークが書いているあいだ見張りをし、原稿を獄外に持ち出していたのが看守。驚くことに、反ナチスの闘いで逮捕された人たちに援助の手をさしのべるためにドイツ刑務所の看守になった人がいたのだ。 →2025/09/11
Nobuko Hashimoto
20
過去に読んだと思い違いしていた一冊。ドイツ占領下のチェコスロヴァキアで共産党の活動家だったフチークは手入れによって捕らえられ、400日ほどの拘留のあと処刑される。ジャーナリストだった彼は、チェコ人看守の協力で紙と鉛筆を入手し、獄中で文章を綴る。看守らの命がけの持ち出しと保管のおかげで手記は戦後まで残る。同じく捕らえられ、テレジーン収容所に移送された妻は辛くも生き延び、亡き夫の手記をまとめて出版した。非常に詳細な訳注のおかげで、登場する一人一人の人となりや繋がりも生き生きと浮かび上がってくる。(つづく)2025/03/07
ロビン
14
泣きながら読んだ。ナチス・ドイツ占領下のチェコで共産党員として捕われた著者が、裏切って口を割る人間も出る中、同志を、自らの信念を売り渡すことなく凄まじい拷問を耐え抜いて書き残した記録。この記録をーフチークが毅然として、静かな喜びの中で生き死んでいったことが残るようにと彼に筆記具を渡し、自分の生命を危険に晒してまで隠し守り、戦後フチークの妻に伝えた看守や雑役夫の存在に、熱いものを感じずにおれない。フチークはロマン・ロランに影響を受けたという。人間が人間らしく生きられる社会を創るー使命に殉じた男に敬意を表す。2025/08/29
きゅー
4
第二次世界大戦下のプラハ。ゲシュタポに逮捕されたフチークによる獄中からの報告書。彼の語りはプリーモ・レーヴィのそれと似ている。両者ともいつ殺されてもおかしくない収容所に監禁されていながら声高に敵を非難しない。一人ひとりの人間を見ずに、ひとまとまりの組織、宗教、団体、国家を同じラベルで色付けすることへの静かな拒絶。自分も陥りがちな蒙昧に気をつけなければと念じた。極限に追い詰められた時に裏切り者となるか、人を助ける者となるか。もちろん後者でありたいと願いつつ、自分にはその自信が持てない。2013/05/27
刳森伸一
3
ナチス・ドイツ下のチェコでゲシュタポに逮捕され拷問をかけられた後に監獄に入れられたジャーナリスト兼作家で共産主義者のフチークが監獄内で隠れて書いた手記。死刑になることがほぼ決まっている中で、監獄内のことや同志たちのこと、そして共産主義が示す未来(それは裏切られることになるが…)のことなどが語られる。人々の理性を信じてやまない力強さに溢れている。レポートというよりも社会主義リアリズム小説のようだった。2019/09/06