出版社内容情報
ナチス・ドイツの占領下のプラハで,共産党第二次地下中央委員会の一員として捕えられた著者が,拘置されていた獄中で秘かに書き残した作品.魂をうつ極限状況の人間記録として,またナチスに対する抵抗運動の記録として八○もの言語に訳されて今日まで読みつがれている.巻末に著者の獄中書簡,詳細な訳注と年譜を付す.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Nobuko Hashimoto
20
過去に読んだと思い違いしていた一冊。ドイツ占領下のチェコスロヴァキアで共産党の活動家だったフチークは手入れによって捕らえられ、400日ほどの拘留のあと処刑される。ジャーナリストだった彼は、チェコ人看守の協力で紙と鉛筆を入手し、獄中で文章を綴る。看守らの命がけの持ち出しと保管のおかげで手記は戦後まで残る。同じく捕らえられ、テレジーン収容所に移送された妻は辛くも生き延び、亡き夫の手記をまとめて出版した。非常に詳細な訳注のおかげで、登場する一人一人の人となりや繋がりも生き生きと浮かび上がってくる。(つづく)2025/03/07
きゅー
4
第二次世界大戦下のプラハ。ゲシュタポに逮捕されたフチークによる獄中からの報告書。彼の語りはプリーモ・レーヴィのそれと似ている。両者ともいつ殺されてもおかしくない収容所に監禁されていながら声高に敵を非難しない。一人ひとりの人間を見ずに、ひとまとまりの組織、宗教、団体、国家を同じラベルで色付けすることへの静かな拒絶。自分も陥りがちな蒙昧に気をつけなければと念じた。極限に追い詰められた時に裏切り者となるか、人を助ける者となるか。もちろん後者でありたいと願いつつ、自分にはその自信が持てない。2013/05/27
刳森伸一
3
ナチス・ドイツ下のチェコでゲシュタポに逮捕され拷問をかけられた後に監獄に入れられたジャーナリスト兼作家で共産主義者のフチークが監獄内で隠れて書いた手記。死刑になることがほぼ決まっている中で、監獄内のことや同志たちのこと、そして共産主義が示す未来(それは裏切られることになるが…)のことなどが語られる。人々の理性を信じてやまない力強さに溢れている。レポートというよりも社会主義リアリズム小説のようだった。2019/09/06
Fumitaka
2
ナチス・ドイツ占領下で、あるチェコ共産党員が地下活動の咎で処刑されるまで記した手記である。中盤、彼を手伝う内にマジの共産主義者になった女の子のことが語られる。我々は「共産主義」を掲げた国々の実態を知っている。だがそれは、かつてその理想に、皆が等しく幸福に暮らす未来を夢見た人々がいたこととはまた別の事実である。作者も命を捧げ、彼らの生きた証を後世に伝えることになる。坂口安吾は言った、少なからぬ若者が愛国心から特攻隊として命を散らした、愛国心とは美しい、無償の奉仕だ、だがそれを強制するのは許されざる罪だと。2018/11/30
クッシー
1
ナチス占領下のプラハで捕らえられた著者は監獄の中でレポートを書いた。なんと言っても想像を絶する暴力。痛々しい描写が最初の方に出てくる。だが、その状況に絶望する事なくやがて訪れる死に向き合う。明日死ぬかもしれない、そういった極限の状態で冷静に物事を把握している。とてもじゃないが自分には真似できない。「あすになったらなったら何事が起こるか、そんなことはだれにもわかりはしないのだ。」この一節に感動した。2021/06/02