出版社内容情報
馬鹿なのかみせかけなのか,おだやかな目をした一見愚直そのものの一人の男.チェコ民衆の抵抗精神が生んだこの一人の男にはオーストリー・ハンガリー帝国の権力も権威も遂に歯が立たなかった.年移り社会は変わっても,この権力に対する抵抗精神のシンボルは民衆の心に生き続けている.本文庫版は最も插絵の多い版になった.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
61
いったいいつになったら敵との戦闘が始まるのかと思っていたら、この話は、戦争が始まらないうちに、作者の病死で未完で終わってしまっていた。まだ先が続いていたら、戦闘風景などどのように描かれたのだろう。いったいどれほどの長さになったことだろう。この作品は、『アウシュビッツの図書係』の主人公ディタが読んでいた本。平和なときなら確かに少女が読むような本ではないが、同じような戦時中で、同じように愚かさ、不合理さに満ちた状況で、ディタはどんな気持ちでこの本を読んでいたのだろう。2018/07/08
syota
27
軍の堕落と非効率、無能な将校、民間人まで巻き込む戦争の悲惨さ。あらゆるものを笑いのベールで包みながら描いたこの作品も、作者の死により未完のまま幕を閉じた。とはいえ1400頁近い大作、読み応えは十分。紀田順一郎氏はかつてこの作品について「日本人は今度の苦い戦争体験を得て、ようやくこの作品の真価がわかるようになった」と評したが、戦後70年以上が過ぎ、戦争の記憶はどんどん風化している。戦争を直接体験した世代がこの作品に感じた共感やほろ苦さを、我々はいつまで共有しつづけることができるのだろうか。[G1000]2016/09/27
Nobuko Hashimoto
15
4巻は長編の『シュヴェイク』は三分の一ほどで、残りは長編に先立って発表された短編のシュヴェイクや、書簡、訳者解説など。短編のシュヴェイクは長編と比べると表現が直截的でユーモアに欠ける。長編のシュヴェイクの技巧のうまさ、面白さをあらためて確認。長編のシュヴェイクは作者ハシェクが病死して未完であるが、もしも続いていたらどうだっただろうか。訳者あとがきではハシェクの生涯についてかなり詳細に紹介。翻訳の苦労や工夫、こだわりもていねいに解説してあり、理解の助けとなる。2017/01/28
秋良
13
【G1000】先が気になって読み進めたらまさかの未完だった。悲惨で劣悪な現実をユーモアで包む傑作がどんな着地をしたのか気になるけど、戦争の結果を考えれば未完で良かった気がしないでもない。母国へ引き上げる時のエッセイも安定の面白さで「船酔いが酷くて初めて真剣に神に祈った。結果は全然変わらなかった」ってあって笑ってしまった。でしょうねww 結局シュヴェイクは白痴だったのか佯狂の一種だったのか、真相は闇の中……。挿絵も可愛いラダで合っていた。2022/09/17
Christena
9
シュヴェイクのとぼけた皮肉やユーモアは相変わらずだが、第1巻がいちばん強烈な印象だったかも。未完なのが残念。自分を韜晦しているのか、本当に白痴なのか、いつも上官を苛々させるシュヴェイクの物語を、最後まで読みたかった。2017/07/06