出版社内容情報
馬鹿なのかみせかけなのか,おだやかな目をした一見愚直そのものの一人の男.チェコ民衆の抵抗精神が生んだこの一人の男にはオーストリー・ハンガリー帝国の権力も権威も遂に歯が立たなかった.年移り社会は変わっても,この権力に対する抵抗精神のシンボルは民衆の心に生き続けている.本文庫版は最も插絵の多い版になった.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
107
ここまでくると、戦争の状況より内部体制への風刺がさらに頭をもたげてくる。シュベイクを通した風刺は、彼が白痴的であるがゆえの頑固さや怖いもの知らずさからなされているが、一巻の初めで見せたキレの良さは決して白痴ではないだろう。この時代の後にチェコスロバキアになる時代がきて、やがてベルリンの壁の崩壊後にはチェコとスロバキアに分かれ、ユーゴスラビアでは民族間の戦いが起こったが、その本をその頃に読んでいればさもありなんと思えただろう。かくも深き根をはる問題だ。2016/12/18
NAO
66
軍用列車は出発。ところが、なかなか、戦地にはたどり着かない。そして、こんな状況にあっても無能力で無責任、まったく緊張感のない上司は、相変わらず身勝手な行動に終始し、彼らの行動と実態とは全くかけ離れたものになってしまっている。シュヴェイクが自分が窮地に立った時ルカーシ中尉の名をあげて中尉も巻き込んだのには、何でも自分の思い通りになると思っている権力者に対する意図的な意趣返しのようなものが感じられる。2018/07/04
syota
29
シュヴェイクの大隊は、ロシア軍と向かい合う最前線へ移動を続ける。この巻では、軍隊内の様々な人間模様が丹念に描かれている。公金や食料を平気で横領する士官や下士官たち、個人的感情で兵士をいびる上官、無能力で無責任な上部組織の指揮官や参謀、現場の実態と遊離した参謀本部の指示、結果としての輸送や補給の混乱ぶりなど、あきれるばかり。前線に近づくにつれ、周囲の風景は凄惨なものになっていき “名誉の戦場”などという綺麗ごとの空々しさが白日の下に晒される。笑いの背後に、ずっしりと重い現実が見え隠れしている。[G1000]2016/09/24
Nobuko Hashimoto
16
前線へ移動するシュヴェイクたち。飲み食い女遊びにうつつを抜かし、肝心なことはいいかげんな将校たちに罵倒され、難題をふっかけられる。例によってうまく立ち回るのだが、いつもニコニコのシュヴェイクが、この3部では静かにキレる。どんな残酷なことも苛烈な状況も笑いに転じてきたこの長編のなかで、数少ない、いや唯一、シリアスなシュヴェイクが出現するシーン。そのあとも「話さえしていればどんな苦しいこともどうにか忘れられるのであります」というセリフが出てくるように、戦地の深刻さがにじんでくる巻。2017/01/24
秋良
12
【G1000】前巻でいよいよ出陣が決まったものの、なんとこの一冊まるまるかけても戦場につかない。指揮系統の混乱はいよいよ甚だしく、公金や食料の横領がはびこる。日本軍だけでなく、オーストリア軍にも無計画に精神論で押し切ろうとする上官がいたことに背筋が凍る。優秀な指揮官は世界中を探してもほんの一握りなのかもしれない。軍隊でのあだ名のつけ方と「くたばりぞこない」の用法の違いに笑ってしまった。ロシア兵に間違えられて護送されたので、次回は強制労働の話になると予想。2022/08/26