出版社内容情報
馬鹿なのかみせかけなのか,おだやかな目をした一見愚直そのものの一人の男.チェコ民衆の抵抗精神が生んだこの一人の男にはオーストリー・ハンガリー帝国の権力も権威も遂に歯が立たなかった.年移り社会は変わっても,この権力に対する抵抗精神のシンボルは民衆の心に生き続けている.本文庫版は最も插絵の多い版になった.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
156
設定が超ブラック。舞台は、サラエボでオーストリア皇太子が殺された直後のチェコ。迂闊に話せば警察に連れて行かれる。言葉尻を捉えて反逆罪で裁かれる。悪意はないが辛辣で陽気で毒舌のシュベイクは格好の餌食。しかしシュベイクはめげない。自己弁護もしない。淡々とやり過ごす。あと3巻、読むのが楽しみだ。前書きより『つつましやかな英雄の物語…、今日プラハの街を歩けばボロ服を着た一人の男に出会うが、その男はこの新しい偉大な時代の歴史で、自分がいったいどんな意味を持っているのか、知りもしないのである』実在したのかな。2016/12/17
NAO
68
第一次世界大戦時のチェコ。善良なシュヴェイクは、兵士となって戦地へ向かうことになる。シュヴェイクについては「善良な」とか「愚かな」ということが何度も言われているが、実は彼は血統をごまかして犬の販売をしていて「善良な」とは程遠い。また、自分が優位な立場につくとちゃっかりそれを利用するというずる賢さもあり、「愚かな」というのともまたちょっと違う感じがする。シュヴェイクとは、愚か者のふりをして権力者をあげつらうティル・オイレンシュピーゲルのようなタイプの権力への反逆者なのだろう。2018/07/02
zirou1984
48
チェコ文学は基本どれを取っても外れ無しなのだけど、その中でも頭三つ抜けたヤバさ。第一次大戦当時、オーストリア=ハンガリー帝国の一部だったチェコを舞台に煮ても焼いても三ツ星シェフに任せても食えない「善良な兵士」シュベイクが権威と体制、戦争に踊らされる人々を罵倒後差別語入り交じりで徹頭徹尾おちょくりまくるユーモア小説。元アナキスト運動家である著者ハシェクの経歴も中々のものだが、これ程までアイロニーに満ちた小説がカフカと並ぶ国民的作家として扱われるというのはつくづく、チェコという国の業の深さを思い知らされる。2014/03/19
syota
25
すごい作品だと思う。政治犯をでっち上げる警察、兵士を人間扱いしていない軍、戦争の片棒を平気で担ぐ宗教、崩壊寸前の末期症状を呈している多民族国家。これだけ重い内容を扱いながら、シュヴェイクという愛すべきトボけた中年男が登場するだけで、とたんに軽妙な風刺劇になってしまう。舞台は第一次大戦中のチェコだが、このような戦争を口実にした権力の暴走と国民への圧迫は、洋の東西を問わず起こっていたはず。決して他人事とたかをくくれる話ではない。全4巻で、第1巻は入営をめぐる騒動と後方勤務の話。[G1000]2016/09/19
うらなり
18
時代は第一次大戦。作者のハシェイクはプラハ生まれだがソビエト共産党の広報部幹部にまで上り詰め、また民族独立機運の高まったプラハにもどって、当局に追われる身になり潜伏したりして苦労の多い人生のうちにこの戦争に対する強烈な風刺の大作をまとめたようです。ベオグラード、プラハ、モスクワ、ブタペストそしてウィーン、ドイツの各民族が複雑にからんだ展開があって東欧の複雑さを垣間見ることができました。また挿画が素晴らしく、ラダという童話作家の作品でハシェイクは個人的にもこのラダに相当世話になったようです。
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- 和書
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