内容説明
17世紀のスペインに生まれ、漁色放蕩の典型的人物として世界文学に籍を得た「ドン・フアン」は、モリエール、モーツァルト、バイロンなど、多くの芸術家によって変奏されてきた。表題作はその原典で、スペイン黄金世紀の劇作家による、ドン・フアンをモチーフにした世界最初の作品。「緑色のズボンをはいたドン・ヒル」を併収。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬弐仟縁
24
1630,35年初出。解説によると、市井の劇場に足を運ぶ観客の想像力は非常に豊かであった(313頁)。ティルソにとっての 演劇は、人生および 実社会の写し(傍点325頁)。作品テーマは主人公の嘘と騙し。また神慮による罰を仄めかすもの(337頁)。石の招客(まろうど と読むようだ)。従者カタリノン曰く、長い人生とて死まではあっという間ですぜ。 それに死んだあとにゃ地獄ってものが待ち受けてます(94頁)。とりわけ現世での行いが来世を決めるとわたしは思って生きている。 2014/08/12
松本直哉
22
ドン・ファン伝説の系譜の嚆矢となったスペイン黄金期の作家の劇が、モリエールやモーツァルトと比べて大きく異なるのは、色男の叔父や父が登場することで、彼らは放蕩息子の罪を咎めるどころか隠蔽して、自分たちの保身を図ろうとする卑怯で小心な男たちとして描かれる。道徳を正して正義を守るものは誰もいなくて、色事師はますます図に乗ってしたい放題、その暴走を止めるのは超自然の〈石の客人〉でしかない。父権主義の意外に脆くて頼りない側面が暴かれる。ドン・ファン自身は決して父になろうとせず、その前に逃げ出す。父性の否定?2023/06/08
なる
19
イケメン、色男、美男子、女ったらし、プレイボーイ、エロスの権化ことドン・ファンが行く先々で出逢った女性を取っ替え引っ替えするだけの物語、といってしまえばそれまでだけれど、大航海時代のスペインやイタリアなどの時代背景の中で、貴族という恵まれた家系に生まれた人物なら(どれだけドクズでも)上手く行っちゃう、というとてもタメになる本。石の招客の正体も後半に明らかになるが、どっちにしても全部の原因がドン・ファンにある。好き勝手やって悪びれもしない貴族に抱くあらゆるカタルシスが最終的に結実して行くのです。2023/11/26
ラウリスタ~
11
17世紀スペインの悲喜劇で、高尚さの欠片もない能天気な面白さが良い。ドン・ファンはこれが原典だとか。表題作の『セビーリャの色事師と石の招客』は、シリアスと勧善懲悪と、むやみに織り交ぜるユーモア、ちょっとくどいかな。『緑色のズボンをはいたドン・ヒル』こっちはむちゃくちゃおもしろい。場所も時間も全然一致していないけれども、プロットは一貫性を強く感じさせ、のめり込ませる。男に捨てられた女が、男装してとんでもない騒ぎを引き起こすどんちゃん劇。ばかみたいな喜劇だけれども、表題作よりずっと良いと思う。2014/05/12
singoito2
8
セルバンテスやベラスケスがブイブイいわしていた17世紀スペイン、黄金世紀の人気戯曲家の作品2本。かなり込み入ったストーリーで、お芝居として見ても混乱しそうなのに、文字だけで追いかけるのはちょっと辛い。でも、多彩な表現と筋立ての贅沢さを堪能できました。2023/12/12