出版社内容情報
「恐ろしき媒」とは「世間」のこと.根も葉もない世間の陰口や噂は,往々にして,もともと何でもなかった男女を苦しめ,追い落とす.幸福で申し分のなかった家庭が,この「媒」によって,名誉を失い,破滅の淵に追いこまれてゆく悲劇を,スペイン・ロマンティシズムの劇作家エチェガライ(1832‐1916)は巧みに描きだした.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
takeakisky
1
永田寛定が読みたくて本棚を漁る。ドン・キホーテも作り上げた利害も喜劇。これは悲劇。いかがだろうと期待に胸膨らむ。長い導入部を経て幕が上がる。エルネストの父母はなく、父を恩人と称えるドン・フリアンのもとに寄宿。ひとつ屋根の下で暮らすフリアンの若い妻テオドーラとの間を世間は口さがなく噂を。と同居の弟夫婦の讒謗。恐ろしい媒。弟の息子ペピート。ペピートは、ホセの愛称。西班牙人の愛称は訳が分からない。汚と清をかっちり対比させながら、終幕のどんでん返しまで美しい東京弁が勢いよくエスコートする。ほんとうに素晴らしい。2025/02/25
保山ひャン
1
1881年作の戯曲。ホセ・エチェガライは1904年にノーベル文学賞を受賞している。本作は、世間の噂の理不尽な暴力を描いている。ドン・フリアンには若き妻テオドーラがいた。若き作家エルネストは、テオドーラを姉とも慕い、ドン・フリアンを父とも敬っていた。その愛情のあり方には後ろめたいところは微塵もなかったが、世間は邪推する。若い作家と幼な妻の関係が怪しいと。ドン・フリアンの弟一家が、世間は何と言ってるか知ってるか、という言い方で醜くも恐ろしい害毒を撒く。作家はラストでついにぶち切れる。わかる〜!昔も今も変わらん2021/10/09
まどの一哉
1
スペインの作家エチェガライの1881年作品。 一家の主人、若き妻、同居する恩人の息子はいたって善良で上品な人々であるのに比べ、主人の弟家族は下卑た連中でいわゆる無責任な世間そのもの。登場人物はこの2家族だけだが、スキャンダルを好む世間と誤情報によって、善良な一家がじりじりと崩壊してゆく様子に目が離せなく、心痛む。2021/05/03
ごん
1
スペイン。戯曲。1904年、ノーベル文学賞。幸せな家族が、無責任な世間の声に翻弄されて崩壊するというあらすじにひかれて読んだが、結局昼メロだった。訳語が古くて読みにくかったが、現代に翻案してもいける内容では。まあ、今となっては新しみは感じられないけれども、定番な話ではあると思う。当時としては新しい概念である?「世間」ちゅうものを、解明したかったんでしょうな。しかし、しょせんは、壊れていく夫婦があまりにも危機感なさすぎで軽率だっただけ。人の不幸を楽しむやつ多すぎ。ああ、今も全然変わらんな。2015/06/12
urano_takashi
1
ストーリーが明快だし、何より登場人物が「人間的に」動いてくれるので、個人的には『人形の家』よりずっと楽しめた。描写もおもしろくて、序幕第一駒でエルネスト(若き作家で本作の主人公)が原稿が書けないことにいらだち、真っ白い紙に向かって罵詈雑言を浴びせ、破り捨てるシーンは傑作。冒頭2ページで「この作品は当たり」と確信できた。最後のエルネストの捨て台詞もいい。本作のメッセージとしては、「噂に対しては、たとえそれが『噂を否定する』という行為であっても関わったら最後、絡めとられてしまう」ということでOK?2015/04/26