出版社内容情報
プラトーノフ[プラトーノフ,A.(アンドレイ)]
著・文・その他
亀山 郁夫[カメヤマ イクオ]
翻訳
内容説明
中央アジアの砂漠を放浪する少数民族の運命と、彼らを救おうとする青年の行為とを通して、人間の真の幸福とは何かを問う『ジャン』ほか4篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
aika
47
待ちに待った復刊に逸る気持ちを抑えながら、プラトーノフの世界に浸れる幸せを噛み締めた読書でした。それでも人生は、生きるに値するのか。青年チャガターエフが、生きる意味を失うほどの貧困に喘ぐ砂漠の少数民族ジャンを救おうと奮闘する『ジャン』は、その問いを強く突きつけます。自身もジャンの出身でありながら幸運にも教育を受けられた青年の、母との乾いた再会。そして身を挺して少女を守り、仲間のために獲物を捕まえる場面は脳裡から離れません。白眉の『帰還』を改めて再読すると、未来を生きる子供たちの逞しさに希望の姿を見ました。2022/10/24
マリリン
45
既読のロシア文学作品とは趣が異なるが、「粘土砂漠」で惹き込まれ、生と死が交錯するかのような蜃気楼を感じ、感情を持つことすら拒まれたような砂漠での漂泊する人たちの様を描いた「ジャン(幸せを求める魂)」は、人間のみならず鳥や動物の想像を絶する“生”が深い余韻を残した。離れていても家族の深い絆を感じる「三男」も良い。この地上で幸福を勝ち取るには死してもまだ足りないという言葉に問いかけられた「フロー」。「帰還」は最後のシーンに辿り着くまでの葛藤から当時の背景を色濃く感じ思わず落涙した。他作品も読んでみたい。2023/06/23
藤月はな(灯れ松明の火)
38
読友さん達の感想に触発されて読了。どこまでも続く砂漠。乾いた風と太陽の光。鴉に突かれ、砂だらけになり、渇きと飢えを抱えて、でもどこまでも満ち足りていて。ルソーの目指した、社会のくびきから解放された「自然状態での人間」に近いが搾取される側の人間の選ぶ道を描いた「ジャン」が特に印象的でした。わずかでも満ち足りることと豊かさを知ったが上に満たされないことは幸福なのか?抗わずに従属するのと抵抗すること、自律的に人の為に為すということと懇願されて選ぶことの意味とは?深いテーマがこの作品にはぎゅっと詰まっている。2013/07/16
おおた
19
貧★困 やはり今回も「ジャン」の悲惨さとそれでも死なない人間のしぶとさに舌を巻く。3日3晩飲まず食わずで悪い人に歩かされても死なない100人足らずの痩せ細った民族が、ラストでソビエト化して共産主義に取り込まれる。そして久しぶりにまともなごはんを食べたらみんな起きてられないの、これが正しい人のあり方のはずなのに、なぜか全肯定できない。ソ連という多様性と真逆な政治体制の中、少数民族の有り様を考えるプラトーノフの先見の明に驚くしかない。政治の話するときは本書と『土台穴』を読んでからにしてほしい。2020/09/26
tsu55
18
「粘土沙漠」「ジャン」「三男」「フロー」「帰還」の5編。 「粘土沙漠」と「ジャン」は、共に央アジアの辺境の風と土の匂いが感じられる作品。「粘土砂漠」ではジュマリ、「ジャン」ではアイドゥイムという少女が重要な役割を果たすが、何となく、に宮崎駿作品のナウシカを思い浮かべてしまった。2023/10/10