出版社内容情報
亡命者クロポトキンは,祖国を思いつつ,西ヨーロッパ・アメリカの人々に,ロシア文学の特質を伝えようと連続講義を行なった(一九○一年,ボストン).その講義をもとに書かれたのが本書である.ロシア文学の中からきこえてくる悲しみの調べはどこからくるのか.こう設問しつつ語られる文学史の中に著者の肉声を聞く思いがする.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
てれまこし
5
下巻の関心はクロポトキンのドスト観。案の定、辛口の評価だ。クロポトキンには、ドストエフスキーの「過剰」が我慢ができない。人間の醜悪さや精神病理的に対する後者の関心が、彼の自然や人間を愛する感情を害する。これは貴族と雑階級という出身階層にも係るが、根本的には自然主義とロマン主義の対立だ。経済学の父とアナーキストを比較するのは不倫かもしれんが、クロポトキンの世界観はアダム・スミスのそれに近く、自然の秩序を乱す過剰を何より嫌う。自由主義と無政府主義という対極をなす思想が、いずれも国家を否定的に見るのは偶然でない2019/03/29