出版社内容情報
「イゼルギリ婆さん」「秋の一夜」「鷹の歌」「零落者の群」等本書に収められた七つの短篇は,すべてゴーリキー(一八六八―一九三六)の放浪生活の中で育まれた作品である.ここに描かれた日傭い人夫や浮浪者たちの姿には,社会のどん底に喘ぎながらも自由を求めてやまない若きゴーリキーの姿が,みずみずしく写し出されている.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
おおた
20
「私たちの愛は、憎しみにもおとらないほどに重苦しいものである(P.174)」と嘆く人に何と声をかければいい? プロレタリア文学にとどまらない幻想的な描写、時に神話のような絶対的な力さえ感じさせる物語。「チェルカッシ」はガウチョ大好きボルヘスがロシアにいたらこう書こうか、というスリリングで一筋縄ではいかないこそ泥の生態。「零落者の群」では文字通りウォッカばかりでうだつの上がらない人々の自尊心と、這い上がった先に待ち受ける社会の厳しさ・身体の衰えを如実に描き、救いとは何かと声には出されない叫びが聞こえる。2017/02/26
shinano
17
荒れる「海」「風」「雨」、空と地を断絶させる「雲」の描写がみな質量を持っているような文章である。自然感の大きいのがロシアの民族性から了解できる。貧困は文学における人間を観る顕微鏡なのかもしれない。2019/12/26
ちくわ
16
嫁はロシア文学が嫌いだが、自分は好きだ…清濁の『濁』にこそ人間の本質があると思うので。そこで隙間時間で読めるゴーリキー短編集をセレクト。彩芽やポケモンは関係無い(笑)。この暗く重苦しい雰囲気、まさにロシア文学。さらに既読の作品に比べてよりド底辺な人々の物語だった。夢や希望は無く、過酷な労働が続く荒野の如き世界線…日本人からすれば非常にリベラルな感じのヨーロッパにあって、ロシアがかなり異質な文化圏である事が否応無しに伝わってくる。丁度この感想を推敲中(2/17)に、ナワリヌイ獄中死の報を聞く。あな恐ロシア!2024/03/08
tonpie
15
●イゼルギリ婆さん 「わたしはこれらの話を、ベッサラビアのアッケルマンの近くの海岸で聞いたのである」今はモルドバ。黒海に面し、アッケルマンには海岸に古城がある。葡萄園での過酷な労働の後、まだ若い放浪労働者の私と老婆が夜のぶどう棚の下に寝そべって話している。一緒に働いていた連中は夜の海辺で恋の歌を歌い、戯れている。この導入部のうまさには鳥肌が立った。 伝説の怪物の話、老婆自身の情熱的恋の回想、英雄ダンコの話。老婆の回想部が最も魅力的だが、伝説の話は風景が生み出した「革命の予言」のようにも感じる。↓2020/10/19
荒野の狼
9
本書は上田進訳により岩波文庫で出されたものを、改版にあたって横田瑞穂が訂正を加えて1966年に出版したもの。解説は横田のもので収録作一つ一つに解説がつけられている。本書にはゴーリキー初期の1894-1897年に書かれた7編が収録されている。いずれも、海・雲・雨などの自然描写が見事で、これを背景に貧しくも強い個性を持った主人公が登場する。どの主人公も欠点を持ってはいるが魅力的で共感を呼ぶのが特徴。2019/07/07