出版社内容情報
「決闘」はもっとも変化に富んだ本格小説であって,コーカサスの夏の自然を背景に,インテリゲンツィアの悩み多きふたつのタイプ――空想的人間と行動的人間を対立させ,人妻である美しい女性をめぐる悲劇を描く.「妻」は痛ましい飢餓を背景にとり,中年の一有産インテリゲンツィアの深い内心の苦悶を描き出したもの.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みつ
19
1936年初版の岩波文庫。当然旧字旧かなであるが、この時期の本としては字が大きい(1ページ15行)というのがありがたい。そして何より神西清の訳が古びていない。『決闘』は解題によれば「チェーホフの芸術作品中では量的に最も大きな小説」とのこと(p290。なお、彼の初期作『狩場の悲劇』はさらに長いが、こちらは推理小説)。『決闘』は、無為な生活を続ける役人の話。決闘の相手となる人物との思想の違いが浮き彫りになるが、最後は希望を感じるもの。『妻』は、困窮する農民たちへの援助を巡る年の離れた夫婦の対立と再出発を描く。2024/04/11
gogo
17
「決闘」はチェーホフには珍しい長編。コーカサスの海辺の町へ愛人と逃れてきたラーエフスキイが起こす騒動を描く。動物学者フォン・コーレンは彼に憤慨し、2人は決闘を果たす。その後、彼らが語り合うラストの場面が素晴らしい。フォン・コーレンは嵐のなか艀に乗り込む際、波に押し戻される小舟に人生を喩える。「真実を求めて人は、二歩前へ出て一歩下がる。悩みや過失や生への倦怠が、彼らをうしろへ投げ戻す。が真実への熱望と不撓の意志とが、前へ前へと駆り立てる。そして・・・彼はまことの真実に泳ぎ着く・・・。」(↓続く)2017/09/01
しゅん
4
この二作は大傑作です。卑小さと尊厳の間を書くことにおいて、チェーホフほど冴えていた作家はいないのではないか。時代遅れの決闘をしなくちゃいけない、愚かな人間の哀れな営み。その営みの普遍性を誰よりも見抜いてた作家チェーホフの作品のなかで、読まれてないのはあまりに勿体なさすぎる二編の中編小説。チェーホフは戯曲と短編だけじゃない。2015/12/15
kaikoma
3
生きていく事は、それだけで何となく難しいと感じさせる作品が多いのですが、割と展開にメリハリが有り、少し意外でした。作品紹介に悲劇と書かれていましたが、やや疑問です。妻帯者としては思い当たる節が有るもう一つの作品も良かったです。旧仮名遣いが似合います。2021/08/28
KUMAGAI NAOCO
3
主人公ラーエフスキーは人妻ナヂェダ・フェドローナと駆け落ちし、田舎で気ままな生活をしているが、だんだんナヂェダが嫌になり、彼女を捨てて都会へ行こうと目論んでいる。一方ナヂェダは、キリリンやアチュミアノフに誘惑されながらも、ラーエフスキーのことを愛している。自分の事しか考えないラーエフスキーに対し決闘を申し込んだフォン・コーレンには、よくやった!と思った。短かいけれど、劇的で面白い作品。2014/05/31