出版社内容情報
十九世紀初頭,ナポレオンの侵入というロシヤが経験した未曾有の危機の時代を,雄大なスケールで描破した世界文学の最高峰.「歴史をつくるのは少数の英雄や為政者などではない」――巨匠の筆は五百人をこす登場人物ひとりひとりを心にくいまで個性豊かに描きだし,ここに歴史とロマンの一大交響楽が展開する.
内容説明
アウステルリッツ戦で負傷し行方不明だったアンドレイが帰還した夜、妻リーザは男子を出産し死亡する。ピエールは愛のない結婚をして妻の不貞で決闘へ。ロストフ家の恋する若者たちは…様々な人生の一方でナポレオンはロシアを屈辱の講和へ導く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
121
アウステルリッツの戦いの場面は、趨勢が地図で示されていることもあり、とてもわかりやすかった。ナポレオンの機知に比べ、ロシア・ドイツ軍の作戦の未熟さがよくわかる。そのことでロシアは屈辱的講和を結ぶことになる。さて、並行してすすむ社交界の話では、ドルベツコイ公爵夫人親子とクラーギン家の卑しさには吐き気を覚えるほどだが、見かけの美しさや甘言に騙される人々も愚かなのだ。それに気づきながらも、味方もなく、不安を抱えながらも、エレンを嫁にするしかなかったピエールの状況には背筋が震えるほどおぞましいものを感じる。2016/06/16
ひろき@巨人の肩
115
主人公三人が、挫折を味わい悩み苦しむ姿を描く。ピエールはエレンとの離婚とドローホフとの決闘を経験し、周囲に流され生きてきた自分を後悔。フリーメーソンに入会し社会貢献を目指す。アンドレイは初陣アウステルリッツの会戦で敗戦。ナポレオンとの接触、捕虜からの帰還、妻リーザの死去と息子の誕生を通して、承認欲求を欲する生活に疲れ、社会と距離をおく。ニコライは休暇中にドローホフの嫉妬心により賭博で多額の借金を背負い、再起を誓い軍に戻る。ピエールとアンドレイの対話にてお互いが相手に過去の自分を見ている点が面白い。2021/06/19
藤月はな(灯れ松明の火)
86
色香に絆され、エレンと結婚したピエール。しかし、金目当てだったエレンの不倫が発覚!ドーロホフと決闘するも彼が母と妹には優しい男だと分かり、ピエールは苦悩する。ドーロホフのようにある程度、見方が固まった人物像に別の一面を何気なく、描ける事にハッとさせられてしまった。そしてこの時代のロシアにフリーメンソンがあったとは知らなかったな。また、自分の正義心から軍に干される処遇継続中のニコライ。しかし、皇帝に見える事でその心意気を理解してもらうという妄想をしてしまう姿にいつの時代も人って変わらないなと苦笑してしまう。2021/04/10
ベイス
61
心に残った箇所。1アナトールに求婚されたマリアと老公爵のやりとり。「くだらん!」といって額を触れあわせる。素敵だ。2アンドレイが青空を見上げてナポレオンの卑小さ、人間の小ささに思い至るところ。3ピエールがまさかのフリーメーソン入り。登場人物が多彩で、誰が自分と似てるだろうと重ね合わせるながら読み進む。2022/08/10
翔亀
54
全6冊の2冊目。第1部第3篇と第2部第1-2篇。よくドストエフスキー派とトルストイ派に分かれると言うが、今の心境は断然トルストイ派だ。戦場場面は大きな歴史的な動きをキッチリ描きながらトルストイの目は一兵士にあるし、社交界も貴族の華麗な行動を描きながらその目は親として子としての一人間に据えている。まだ大人とも子供ともつかないナターシャの家族の<恋の空気>(p345)の微笑ましさや、不細工なマリアのあの<目>の暖かさが出てくる度にぞくぞくする。なにより登場人物の生き方へのスタンスが固定化されておらず、成長し↓2016/01/30