出版社内容情報
名高いプガチョーフの叛乱に取材した波乱に富む歴史小説であり,静かに当時の人情風俗を描き出した家庭小説でもあるプーシキン(一七九九―一八三七)の名作.すこしも取り乱さず死におもむく老大尉,内気さの底に燃えるような献身愛をひそめたその娘,あるいは素朴愛すべき忠僕の姿などは,日本人にとって驚くばかり親しみ深いものだ.
内容説明
プーシキン晩年の散文小説の最高峰。実直な大尉、その娘で、表面は控え目ながら内に烈々たる献身愛と揺るがぬ聡明さを秘めた少女マリヤ、素朴で愛すべき老忠僕―。おおらかな古典的風格をそなえたこの作品は、プガチョーフの叛乱に取材した歴史小説的側面と二つの家族の生活記録的な側面の渾然たる融合体を形づくっている。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
140
道徳も、人生の教えも、愛も、戦いのあり方も、様々なことを教えてくれる。多くの示唆を含み、人としての正しさを見せてくれる。人の正体が透けて見える舞台のひとつが戦場だとしたら、ただ従うのでは無く、考え判断する力をもつ人たちを描く小説は、国境や時代を超えて訴えかけてきてくれるのだな。新訳で既読だが、岩波文庫の歴史ある訳で読むと響いてくるものの質量が全然違う。主人公に付き従う老僕の愛と知恵、敵ながらアッパレな反乱の首領、タイトルの大尉とその妻、みな愛しくて仕方ない2021/01/17
syaori
70
エカテリーナ女帝時代、父の意向で辺鄙な国境線の要塞に配属された若殿と要塞の司令官の娘マーシャのロマンスが、プガチョフの乱と絡めて語られます。お坊ちゃんな主人公が経験を積みながら、その善良さと筋を通す強さのおかげで運命を開いていく波乱万丈の物語は、脇を固める人々も一筋縄ではいきません。主人公に忠義を尽くす爺やのサヴェーリイチや、残忍さと愛嬌、諦念と野望といった複雑な性格を見せるプガチョフ、内気で芯の強いマーシャなど魅力的な人物たちが物語に豊かな彩りと広がりを与えていて、結末までひと息に読んでしまいました。2022/09/26
のっち♬
62
プガチョフの乱を舞台に、廉直な青年貴族の冒険や奇妙な友情、聡明で芯の強い太尉の娘との恋愛を描いた作品。同時に、当時の被支配層の生活や生き方も伝える内容になっており、歴史小説と家族小説の両要素が巧みに融合している。単なる極悪人としてではなく豪胆と陰影に富んだ人物として描かれたプガチョフはもちろん、生き生きとした掛け合いをみせる実直な太尉夫婦、純朴で愛すべき老忠僕の存在感も大きく、深刻な物語にどこかおおらかで牧歌的な雰囲気をもたらしている。簡潔で平易な文体で読みやすく、ユーモアまで巧みに引き出した見事な翻訳。2018/04/16
やいっち
57
遠い昔、プーシキンに限らずロシア文学作品を片っ端から読み漁った頃に読んだ小説の一つ。プーシキンには系統しなかったが(それは彼が何といっても詩人であり、詩的素質は皆無の我輩がその魅力を感受できるはずもなかったと今にして分かる)、何故か今も印象に残ってる作品。いま読んでるナボコフの「賜物」にて「大尉の娘」という表題に久々触れて思い出した。どんな作品だったろう?
k5
48
最近、プーシキンが口に合う。ともかく面白い。頑固オヤジの差し金で、入隊したとたん辺境地域に配属になったグリニョフは、要塞司令官たる大尉の娘と相思相愛の仲になるが、程なく僭称者プガチョフの乱が勃発、敵地に囚われた恋人を救うべく、主人公は。。。というベタベタのストーリーではありますが、文章はくどくなく、そこかしこにロシア的アイロニーが満ちていて良いんです。ちょろまかされた兎皮の外套や50コペイカがいい感じで伏線になってますし、これを結びつける忠臣サヴェーリイチとプガチョフのやりとりが秀逸。おすすめです。2020/05/30