出版社内容情報
バイロン的な主人公オネーギンとロシアの美徳の象徴ともいえる素朴で誠実なタチャーナとの恋を抒情的にうたった韻文小説.主人公を使って,当時の社会に対する諷刺や諧謔をぶちまけ,十九世紀初期のロシアの現実,民衆の生活と気質,国と民族の本質を描き,随所に作者の体験や文明批評をおりこんだ代表作.散文訳.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
176
ロシアの風土感が随所に感じられる。田舎の風景もモスクワも。そして、必ずしもロシアに特有のというわけではないが、思い込みと激情といった特質も上げられるだろう。殊に顕著なのが決闘だ。レールモントフ(プーシンよりも15歳下。プーシキンとは因縁が深い)もまた弱冠27歳にして決闘で命を落としているし、プーシキン自身もまた38歳で決闘の傷がもとで亡くなっている。そうすると、作家は奇しくもレンスキイと同じ運命をたどったことになる。決闘の勝利者たるオネーギンもまた人生の敗者であることを免れない。しかも自己矛盾によってだ。2014/05/16
のっち♬
136
遊蕩生活でふさぎの虫にとりつかれたオネーギンは地主の娘タチヤーナの恋を拒絶するが、公爵夫人となった彼女と再会して恋に落ちる。著者にまつわる出来事や感慨や文明批評が盛り込まれた混然とした作風で、絢爛かつ抒情的な言い回しに古典主義やロマン主義の影響を匂わせる一方で、自然描写や田舎での生活模様の写実性は高い。特に最後の手紙のやり取りは簡潔な物語の余韻を味わい深くするもので、タチヤーナへの共感と共に不器用なオネーギンに対する憐憫の念が窺える。「若い時に若かった人は仕合せである。よい時期に成熟した人は仕合せである」2021/06/29
lily
107
「結婚生活はお互いに苦痛となるにきまってる。どれほどあなたを愛していたにせよ、僕は一旦慣れたが最後、すぐさま愛想がつきてしまう。あなたは泣きはじめる、が、あなたの涙は僕の胸を打つどころか、かえって僕の心を重くするのが落ちなのです」わぁ!私の胸の内を完全に透かされてる、気持ちいいくらいに。そうそう、愛の敵は憎しみではなく慣れ。超特急だと1時間もしないで。価値観、趣味、癖、嫌いなもの、好きなものを知ると大抵は満足して相手の心の森の奥まで一緒に探検する気力を失ってしまう。2時間の読書の満足と同じ、私に飽くんだ。2021/02/13
yomineko@ヴィタリにゃん
75
純粋な恋心を持つタチアナを無下にも振ってしまうエフゲニー・オネーギン!後に後悔しても時すでに遅し。タチアナは人妻になりエフゲニーをきっぱりと拒絶する。あちこち文章が飛んで読みにくいものの貴族のプーシキンが書いたロシア文学を楽しめた。退屈な本を読んで眠り込もうと思ったが割と面白かった。訳者の教養が素晴らしくて感動した。オペラも観たいけどオペラって凄く高いからなぁ~。レンスキイは可哀相過ぎ。当時のロシア人はフランス語が堪能かつフランスが憧れだったんですね。2022/12/01
aika
57
もうあの頃に戻れない、それがこんなに苦しかっただなんて。心を閉ざしがちだった少女タチアナが初めて恋をしたその純真な思いを、目の前で踏みにじる若きオネーギンの仕打ちに腸が煮えくり返りました。タチアナが独り彼の去った部屋を訪れ、爪痕や筆跡の残る愛蔵書を手にする哀しみが尾をひきます。やがて時が経ち、真実の愛に気づくには遅すぎた哀れなオネーギンにタチアナが投げかける言葉は、真っ直ぐで、温かく、そして厳しく、半ば怒りながら読んでいたのが、ふたりの悲しい愛の世界にすっかり没入してしまい、忘れられない作品となりました。2020/05/14