出版社内容情報
これは当時20代のフランス青年に贈られた,科学の絶対性の崩壊を主張した書.恋愛の研究に科学的実験を試みる場合に発生する悲劇を描き,学問対社会の問題を提示した小説で,時代の改革を希求する作家としての責任が全体を貫き,著者の思想の転換を示す1889年の作.19世紀末フランスの文芸史においても画期的な名作.
感想・レビュー
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てれまこし
9
世間を見下す哲学者であるシクスト先生は、自分を師と崇める有為な若者が殺人の嫌疑をかけられたことに驚かされる。くだらんことで学問の営みを邪魔されるのを迷惑に思ってる先生に、獄舎にいる弟子からの告白文が届く。果たして弟子は本当に有罪なのか。弟子の凶行は自分の学説が唆したものであるのか。フランス保守派による「知識人」批判で、シクスト先生はテーヌがモデルらしい。身分不相応な学問をしてしまったがために自らの生活世界から根こぎにされ、善悪の見境がつかなくなった「知的プロレタリアート」の台頭に対する恐れが背景にある。2022/02/03