出版社内容情報
第一次大戦後のパリ.復員したものの社会の動乱に適応できず無為な日々を送る主人公を尻目に,妻と母は営利と名誉の獲得に奔走している.どこにも自分の場所を見出すことのできない彼は,唯一の女性レアのもとへと帰ろうとするが…….失われた時と永遠の愛との間を彷徨する魂を,とぎすまされた筆致で描く『シェリ』の続篇.
内容説明
第一次大戦後のパリ。復員したものの社会の動乱に適応できず無為な日々を送る主人公を尻目に、妻と母は営利と名誉の獲得に奔走している。どこにも自分の場所を見出すことのできない彼は、唯一の女性レアの許へと帰ろうとするが…。失われた時と永遠の愛との間をむなしく彷徨する魂を、とぎすまされた感覚でとらえた『シェリ』の続篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
109
『シェリ』の続編。あの小説では歳の離れた男女の恋愛が、切々と描かれていたが、ここでは主人公の倦怠感と焦りが綴られる。第一次世界大戦後の仏の世界に馴染めない彼の内面を詩的に美しく描くコレットの筆の冴えを堪能した。ごくわずかな自然の変化さえも見逃さないで、それを小説の中に美しく定着させてしまう技に強く惹きつけられる。『シェリ』では美しく描かれていたシェリの年上の恋人レアは、ここではカリカチュアとして醜さが強調して描かれる。後書きによると作者コレットの分身でもあるそうだ。この冷徹さがいかにもフランス人らしい。2018/02/20
夜間飛行
77
シェリは妻の経営する病院で真っ白な病室にいる軍人達を見て、「カーテンを引いておやりよ。あいつらに影をつくってやらなくちゃ」と言う。自分も戦場帰りなのに、彼らを仲間と見る資格がない事を知っている…だから、これは自分に向けた科白なのだろう。彼は一人ぼっちで、心の中にいるのはレアだけ。愛する対象に愛を向けられない人間がどれほど惨めか、作者はシェリを通して示している。我が儘なシェリに誰が同情しよう? シェリを突き放しつつその内面を巧みに組み上げていく文体は、しなやかな指先で心の襞をなぞっていくかのように思われた。2015/11/05
こばまり
67
鬱屈した青年から退屈した大人へ。その姿はどこか痛ましい。一方、ヒロインの変容は、その潔さに天を仰いで笑いたくなる。私もかくありたい。前作「シェリ」だけ読むのは勿体ない。併せて一つの作品としたい。2018/12/17
星落秋風五丈原
35
前作では若さいっぱい、可能性に満ち溢れていた美青年だったが、戦争を経て、結婚もし、多少くたびれている。レアは再登場するが、前ほど会っている感じではない。なぜならば、レアがあまり身の回りを気にしていないからだ。若い恋人と付き合っていれば、いまだ肌のお手入れなど台詞ケアに余念がないはずだが、そういった心配を手放して、気楽になっている。方シェリは、木を落ちつけられる場所がない。家庭を持ったので、自分こそ大黒柱としてしっかりしなければならないが本人は全く興味がない。贅沢なことだが、この世界に居場所がない。 2024/06/19
ジョニジョニ
26
「シェリ」は全く続編の必要のない、完結したお話だったけど、すでに有名になっていた人物を使って、初めての世界戦争の衝撃を書こうとしたんじゃないか、とおもいました。召集された戦地で、戦友を失い、自身も負傷して帰還したシェリの話を、若い妻は聞きたがる。そのたびに、彼の心は傷を深くしていくことに、傷痍軍人の看護を生きがいにしている彼女は気づかない。「清潔と孤独は同じひとつの不幸なのだ」といって頭がおかしくなったシェリ、今現在も戦争が続いている中、まったく古く感じません。2023/03/05